レビュー:免疫チェックポイント阻害剤による下垂体炎 ―疫学とその対策―

Vol.1, No.2, P.24 公開日:

2016年10月14日  

最終更新日:

2020年12月10日

Immune checkpoint inhibitor-related hypophysitis and endocrine dysfunction: clinical review.

Author:

Joshi MN  et al.

Affiliation:

Departments of Endocrinology, Guy’s & St Thomas NHS Foundation Trust, London, UK

⇒ PubMedで読む[PMID:26998595]

ジャーナル名:Clin Endocrinol (Oxf).
発行年月:2016 Sep
巻数:85(3)
開始ページ:331

【背景】

2016年9月現在,日本においても免疫チェックポイント阻害剤は悪性黒色腫から非小細胞肺癌,腎細胞癌と適応疾患が拡大してきている.免疫チェックポイント阻害剤の売り上げは今後数年で年間数千億円に達すると予想される.一方,同剤は免疫機構を亢進させるため,自己免疫的な機序による内分泌臓器機能の障害もしばしば報告されるようになってきた.本稿はその中で下垂体炎に焦点をあてて,その機序,頻度,病態,治療,予後をレビューしたものである.対象としたのは50人以上のコホートからなる9本のキー論文を含む合計93本の論文.

【結論】

全発生頻度は下垂体炎9%,甲状腺機能障害15%,副腎炎1%であった.発症時期は免疫療法開始後,5~36週で平均9週であった.下垂体機能低下には欠損ホルモンの補充がなされる.これら内分泌的な合併症は毒性有害事象に分類されるので,多くの報告では,免疫治療の中止と大量グルココルチコイドが推奨されている.しかし,内分泌機能低下が薬物で管理でき,免疫療法が癌腫に対して有効である限り,免疫治療を中止すべきでないという主張もある.

【評価】

免疫チェックポイント阻害剤による下垂体炎をはじめとする内分泌臓器への有害事象に関する包括的なレビューである.本文中ではipilimumabではnivolumabやpembrolizumabに比較して下垂体炎の発生頻度が高く,また,高用量では低用量に比較して発生頻度が高いことが示されている.Ipilimumabとnivolumabの併用療法で下垂体炎の発生頻度が上がるか否かについては見解の一致はない.下垂体炎の多くは頭痛を初発症状とする.視交差を圧迫することは少なく,平均下垂体径は5mmにとどまる.著者らは免疫療法前と8週目(チェックポイント阻害剤3回目投与前),16週目での下垂体ホルモンとその標的ホルモンの測定を推奨している.また,本文中では免疫チェックポイント阻害剤の作用機序と内分泌関係の有害事象に関する機序も詳しく述べられている.

執筆者: 

有田和徳

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