ACTH産生下垂体腫瘍を含むクッシング症候群患者では癌の発生率が1.78倍高い:イスラエルの医療保険データベースの解析から

公開日:

2025年1月29日  

最終更新日:

2025年1月30日

Endogenous Cushing's syndrome and cancer risk

Author:

Rudman Y  et al.

Affiliation:

Institute of Endocrinology, Beilinson Hospital, Rabin Medical Center, Petah Tikva, Israel

⇒ PubMedで読む[PMID:39067000]

ジャーナル名:Eur J Endocrinol.
発行年月:2024 Aug
巻数:191(2)
開始ページ:223

【背景】

ACTH産生PitNET(クッシング病)や副腎腺腫などの内因性(薬剤性ではない)クッシング症候群(CS)では,種々の合併症による死亡率が高い(文献1,2,3,4).ただし,CS患者における癌の発生率に関する研究は少ない.
本稿はイスラエル国民990万人のうち480万人をカバーする医療保険データベースに基づく後方視研究である.2000年以降の23年間に診断された609例の内因性CS患者が抽出された.原因別内訳は,クッシング病41%,副腎癌を除く副腎性CS 33%,不確定26%であった.各症例毎に,一般人口の中から年齢・性・社会経済的な背景・BMIをマッチさせた対照を1:5の割合で設定した.

【結論】

追跡期間中央値は14.7年.
CS患者では,対照群と比較して癌の発生数が有意に高く,HR:1.78であった(95% CI:1.44-2.20).
CSの原因別では,クッシング病251例でHR:1.65(1.15-2.36),副腎性CS 200例でHR:2.36(1.70-3.29)であった.
発癌リスクが上昇していた癌腫は,泌尿生殖器癌,甲状腺癌,副腎癌,婦人科癌であった.
内分泌医のスクリーニングで見つかり易い可能性がある甲状腺癌を除いても,CS患者では発癌リスクは高かった.
内因性CS患者では発癌リスクが高い可能性があり,包括的な癌のスクリーニングの必要性に関しては,今後さらに検討が必要である.

【評価】

本研究で示唆された内因性クッシング症候群における癌の発生率の上昇は何によるものであろうか.内因性の過剰なコルチゾールの産生は,白血球の誘導抑制,CD8陽性T細胞の抑制,炎症性サイトカイン発現の抑制,T細胞チェックポイント蛋白の誘導,前癌シグナリングの誘導を引き起こし,発癌を促進する可能性がある(文献5).さらにコルチゾールの過剰は,肥満(BMI上昇),インスリン抵抗性,糖尿病といった発癌リスクの上昇をもたらすことが知られている(文献6,7,8).
本研究の問題点は,CS患者では治療を担当している内分泌・代謝科などの医師による積極的なサーベイランスで癌が発見されやすいというバイアス(ascertainment bias)の可能性があることである.特にCS患者に対する内分泌学的なサーベイランスで検出され易いのは甲状腺癌かも知れないので,本研究では甲状腺癌を除いた他の癌腫全体でも検討したが,やはりCS患者では癌の発生が多かったという(HR:1.71,95% CI:1.23-2.12).
しかしそれでもなお,CS患者では積極的なサーベイランスで各種の癌が検出されている可能性を払拭できないように思われる.
本研究の発見は,CS患者群と対照群を同様なスクリーニングの手法で定期的にチェックしていく前向き試験で検証されるべきであろう.また,CSの寛解が癌発生リスクの上昇にどのように影響するのかも重要なテーマである.
一方で,少なくとも現段階では,ACTH産生PitNETを含むCSの患者では癌の発生率が高い可能性があることを前提に,十分な臨床的配慮を行う必要が有るように思われる.

執筆者: 

有田和徳