術後,IGF-1正常化にも関わらずGH底値 ≥0.4μg/Lの先端巨大症はどうなるのか:広島大学の23例

公開日:

2025年1月29日  

最終更新日:

2025年1月30日

Management policy for postoperative acromegaly patients with normal IGF-1 and high GH levels on oral glucose tests

Author:

Kinoshita Y  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University, Hiroshima, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:39724486]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2024 Dec
巻数:28(1)
開始ページ:4

【背景】

2010年に発表された新規寛解基準によれば,先端巨大症の手術後寛解はIGF-1の正常化(性・年齢毎の正常上限以下)かつ経口糖負荷試験(OGTT)におけるGH底値 <0.4μg/Lと定義されている(文献1).しかし,手術後IGF-1が正常化しながらもGH底値 ≥0.4μg/Lにとどまる症例は多い.広島大学脳外科では2005年以降に110例の先端巨大症の手術を行った.術後3ヵ月目の負荷試験では55例が術後寛解と判定された.一方,23例はIGF-1が正常化しながらもGH底値 ≥0.4μg/Lであった.この23例では追加治療なしに,IGF-1測定とOGTTを6-12ヵ月おきに繰り返しながら経過観察した.

【結論】

経過観察期間は中央値71ヵ月間.
23例中8例は同じ状態が持続し(持続群),10例は経過観察中にGH底値 <0.4μg/Lとなり(後期寛解群),5例はIGF-1も上昇した(再発群).
術後寛解群と比較して,後期寛解群では女性(80%,p =.0178),糖尿病患者(60%,p =.0084)が多かった.
術後寛解群と比較して,持続群では術前腫瘍径が大きく(p =.0110),Knospグレードが高く(p =.0334),術前GH値が高かった(p =.0018).
術後寛解群と比較して,再発群では術前腫瘍径が大きく(p =.0451),Knospグレードが高く(p =.0080),Ki-67陽性率が高かった(p =.0085).

【評価】

2010年の新規寛解基準(新コルチナ基準)によれば,先端巨大症の寛解はIGF-1の正常化かつOGTTにおけるGH底値 <0.4μg/Lと定義されている(文献1).本稿の著者らの施設では,手術後,約半数は両者を満たして寛解=治癒と判定され,約2割は両者とも満たさず非寛解と判定されている.一方,約3割は新コルチナ基準の片方しか満たしていない.そのうち,手術後GH底値 <0.4μg/LとなりながらもIGF-1値が高いままの症例の多くは,術後数年の経過でIGF-1が徐々に低下し寛解に達することを,既に本稿の著者らが報告している(文献2).
本稿は,術後IGF-1値が正常化しながらGH底値がまだ高い(≥0.4μg/L)症例がその後どのような経過をたどるのかを,IGF-1測定とOGTTを6-12ヵ月おきに繰り返しながら追跡した結果である.その結果,追跡期間中に寛解に至る例,再発と診断される例,そのままの状態が持続する例に分かれた.著者らは,手術後寛解群と比較した各群の特徴を明らかにしている. 
手術後にIGF-1が正常化しながらGH底値が正常化(<0.4μg/L)しない症例では,腫瘍細胞の微小な取り残しが存在する可能性があり,一部はそれらの細胞が増殖し再発に転じ(文献3,4),一部は次第に壊死に陥り寛解となり,一部は増殖せずに生き残るというストーリーは容易に想像できる.特に腫瘍径が大きい症例,Knospグレードが高い症例,Ki-67陽性率が高い症例では再発に注意して慎重に経過観察すべきであろう.
本稿で興味深いのは,後期寛解群では女性対男性比が8:2と女性が多かったことと,糖尿病患者が6割と多かったことである.その理由については十分に判っていないが,特にこれらの患者では,術後のGH底値が未だ高くても(≥0.4μg/L)やがて低下することも考慮して,著者らが言うように性急な追加治療は避けるべきなのかも知れない.
本稿の発見は,先端巨大症の術後管理に当たって重要なポイントを提起するものになっている.他の大規模下垂体センターでの追試に期待したい.

<著者コメント> 
周知の通り,先端巨大症の寛解基準は,経口糖負荷試験(OGTT)におけるGH底値が<1.0μg/Lから<0.4μg/Lへ変遷してきた経緯がある.そして2024年のPituitaryに掲載された論文"Consensus on criteria for acromegaly diagnosis and remission"(文献5)では,先端巨大症の寛解基準においてOGTTは不要ではないかと提言されている.この一連の経緯は本論文の趣旨とも合致するところであり,OGTTにおけるGH底値というのが,多くの因子によって影響を受ける,いかに曖昧で不十分な指標であるかということを示している.先端巨大症の寛解基準からOGTTが正式に削除されると,本論文の存在意義が失われるという一抹の寂しさはあるが,今後,先端巨大症の寛解はIGF-1値を中心として判定する方向に進んでいくように思われる.(広島大学脳神経外科 木下康之)

執筆者: 

有田和徳