ラトケのう胞に伴う頭痛は内視鏡下ドレナージで改善する:ロイヤル・メルボルン病院24症例のHIT-6スコアの変化

公開日:

2025年4月23日  

Headache relief following endoscopic drainage of Rathke's cleft cyst

Author:

Jian A  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Royal Melbourne Hospital, Melbourne, VIC, Australia

⇒ PubMedで読む[PMID:40082261]

ジャーナル名:Pituitary.
発行年月:2025 Mar
巻数:28(2)
開始ページ:40

【背景】

頭痛でMRIを撮るとラトケのう胞が見つかることは稀ではない.しかし,この頭痛が本当にラトケのう胞に起因するのか,そうであるとすれば手術しなければならないのか,判断は悩ましい.
本稿はロイヤル・メルボルン病院と3つの関連施設の前向き登録データベースから,2017-2024年に内視鏡下ドレナージが行われたラトケのう胞64例のうち,手術前・後にHIT-6スコアで評価された24例(年齢中央値58歳,女性63%,のう胞平均径17 mm)を対象として,手術が頭痛に与える影響を検討したものである.主症状は頭痛46%,視機能障害33%,内分泌症状13%などであった.3例の頭痛は突然発症であった.

【結論】

24例全例のHIT-6スコア平均値は術前52.1で,術後6ヵ月で7.2ポイント,12ヵ月で6.1ポイント低下した(ともにp <.05).
術前に頭痛(HIT-6スコア >36)を有した16例(67%)では,手術後12ヵ月で10例(63%)が有意義な改善,2例(13%)が不変,4例(25%)が悪化であった.患者背景諸因子と手術後の頭痛の改善の有無との相関はなかった.
術前に頭痛を有した16例では,ABSQスコア(前頭蓋底手術を受けた患者のQOL評価)は,術前に比して手術後3週間目で一旦低下したが(p =.03),手術後6ヵ月,手術後12ヵ月目では術前より高かった(p =.03とp =.07).

【評価】

ラトケのう胞患者では約6割で頭痛が認められ,患者のQOLを低下させている(文献1,2).頭痛の発生機序としては,のう胞による鞍隔膜やトルコ鞍底硬膜の圧迫以外に,ラトケのう胞内容液のくも膜下腔への流出,のう胞壁や下垂体の炎症,ラトケのう胞壁からの出血が想定されている(文献1,3,4).このため,頭痛は1 cm以下の小さなラトケのう胞でも起こり得,そのような症例では多くの場合,のう胞内容液は高い蛋白濃度を反映してT1高信号である(文献5,6).
ラトケのう胞に伴う頭痛は経鼻内視鏡下ドレナージ手術で高率に改善することが知られているが(文献7),本稿のように多数例の前向き登録データを用い,手術後の複数のタイム・ポイントで評価した報告は少ない.
本研究で用いられたHIT-6(Headache Impact Test-6)は頭痛が日常生活に与える影響を評価するテストである.本研究は,ラトケのう胞に対する経鼻内視鏡下ドレナージ手術の前向き登録データベースから,手術前後にHIT-6の評価が行われた24名を抽出して解析している.その結果,対象のうち16例(67%)が術前に頭痛(HIT-6 >36)を有し,経鼻内視鏡下ドレナージ手術を経て,術後12ヵ月では,頭痛があった患者のうち63%(10例/16例)でHIT-6が改善していたことを明らかにしている.著者らは,ラトケのう胞に対する経鼻内視鏡下ドレナージ手術によって,頭痛やそれに伴うQOLは,手術後3週目前後での一時的な悪化の後,長期的(6ヵ月,12ヵ月)には改善すると結論している.
しかし問題は,急性頭痛に対するMRI精査で発見されたラトケのう胞では頭痛が自然に消退する場合が多いことで,そのようなケースではのう胞径も自然に縮小することが報告されている(文献8).本稿のシリーズ24例でも3例が突然発症の頭痛であったが,これら3例を除いてもHIT-6スコアは有意に改善するのか,疑問が残る.
やはり,視機能障害や内分泌症状がなく,頭痛のみを呈するラトケのう胞を対象とし,保存的治療と手術療法を比較した前向き試験は絶対に必要と思われる.

執筆者: 

有田和徳