脳動脈瘤に対するフローダイバージョン:中止となった無作為割り付け試験とレジストリー

Vol.1, No.3, P.7 公開日:

2016年12月4日  

最終更新日:

2021年1月26日

Flow diversion in the treatment of aneurysms: a randomized care trial and registry.

Author:

Raymond J  et al.

Affiliation:

Notre-Dame Hospital, Department of Radiology, Montreal, QC, Canada.

⇒ PubMedで読む[PMID:27813466]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2017 Sep
巻数:127(3)
開始ページ:454

【背景】

本研究は脳動脈瘤に対するフローダイバージョンステントの安全性と有効性に関するFlow Diversion in the Treatment of Intracranial Aneurysm Trial(FIAT)の結果である.この研究はフローダイバージョンステントvs標準治療(経過観察,コイル塞栓術,クリップ,母動脈閉塞)RCT(39例対39例)とフローダイバージョン治療症例34例のレジストリーからなる.動脈瘤の大きさは,無作為試験対象患者の約6割,フローダイバージョン・レジストリー患者の約8割が10mm以上であった.

【結論】

研究の対象は参加施設でフローダイバージョン治療が有効と考えられた脳動脈瘤の症例である.この試験は安全性への危惧のため,途中で登録中止となった.割り当て後3カ月かそれ以降の段階で,フローダイバージョン群に割り当てられたか,フローダイバージョン治療を受けた75例中8例が死亡し,4例がdependent(mRS>2)となった(合計16%).RCT参加の78例のうちフローダイバージョン治療が実際に実行された38例中5例(13.2%)が,標準治療に割り当てられた39例では5例(12.8%)が死亡かdependentとなった.フローダイバージョン群で42.1%,標準治療群で35.9%が,一次エンドポイントである割り当て後3〜12カ月での自立状態(mRS≦2)での動脈瘤の完全閉塞には到達できず,期待値に届かなかった.
フローダイバージョン治療は期待した安全性と有効性を示さなかった.

【評価】

フローダイバージョンステントは内頸動脈の大型動脈瘤に対して認可されているが,最近は比較的小型の動脈瘤や後方循環の動脈瘤に対しても応用が広がっている.
本論文はカナダの3つのセンターで実施された前向き研究の結果である.本研究は,大型でフローダイバージョン治療の対象となるような動脈瘤に対する治療の困難性を改めて浮き彫りにすることになった.本試験においてフローダイバージョンステント治療は当初安全性の期待値として設定された15%以下の死亡率あるいは重篤障害(mRS>2),有効性の指標とされた 標準治療に比較してのgood outocome〔自立状態(mRS≦2)での動脈瘤の完全閉塞〕の75%から90%への上昇,いずれをもクリアーできなかった.
なお,フローダイバージョンで治療された76個の動脈瘤の平均径は17mmで,83%が前方循環,17%が後方循環であった.使用されたフローダイバージョンステントはSilk47個,Pipeline38個であった.一方,標準治療群に割り当てられた39例で実際に行われた治療はコイル塞栓術25例,近位動脈閉塞術10例,経過観察4例であり,クリッピングは選択されなかった.

執筆者: 

有田和徳

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