転移性脳腫瘍に対する術前定位放射線照射は,OSと頭蓋内腫瘍コントロールにおいて摘出術後全脳照射に匹敵する

Vol.2, No.2, P.11 公開日:

2017年4月9日  

最終更新日:

2021年2月1日

Comparing pre-operative stereotactic radiosurgery (SRS) to post-operative whole brain radiation therapy (WBRT) for resectable brain metastases: a multi-institutional analysis.

Author:

Patel KR  et al.

Affiliation:

Department of Radiation Oncology, Winship Cancer Institute, Emory University, Atlanta, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:28000105]

ジャーナル名:J Neurooncol.
発行年月:2017 Feb
巻数:131(3)
開始ページ:611

【背景】

転移性脳腫瘍に対する術前定位放射線照射(SRS)は術後SRSに比較して,放射線壊死(RN)と軟髄膜癌腫症(LMD)の発症リスクを減少させることが報告されている.アトランタ市エモリー大学のPatel KRは術前SRSと術後全脳照射(WBR)を比較した(術前SRS=66例,術後WBR=36例).患者背景として術前SRS群の方が,単一病巣例が多く,腫瘍体積が小さかった(p<0.01).

【結論】

1年生存率と2年目の頭蓋内腫瘍制御(局所コントロール,頭蓋内遠隔病変)の差はなかった(p=0.43〜0.81).2年目のLMDの頻度は共に低く,術前SRS群3.5%, 術後WBR群9.0%であった(p=0.66).症候性RNも共に低く術前SRS群5.6%,術後WBR群0%であった.

【評価】

かつては,転移性脳腫瘍(BM)に対する治療のスタンダードは腫瘍摘出後の全脳照射(WBR)であった.しかし,癌治療の進歩と共に,患者の生命予後が伸びてくると,認知機能低下など全脳照射による有害事象が問題になってきた.一方近年,切除腔への術後定位放射線照射(SRS)は,術後WBRに比較してOSが変わらないことが明らかになり,認知機能の低下も最小限に抑制出来ることから,多くの施設で採用されつつある.しかし,摘出腔へのSRSでは放射線壊死(RN)の頻度が高くなることが指摘されており,また摘出操作に伴う癌細胞の散布による軟髄膜癌腫症(LMD)も危惧されている.
術前SRSは,2014年に発表された新しい治療パラダイムであり,LMDとRNの頻度を抑制する可能性がある.著者らの先行研究では,術前SRSは術後SRSに比較して,OSと頭蓋内腫瘍制御は不変だが,LMDとRNのリスクが有意に低下することを報告している. しかしこれまで,古典的な標準治療である術後WBRと術前SRSを比較した研究はなかった.本研究によって,術前SRSは,OSと頭蓋内腫瘍コントロールにおいて術後WBRに匹敵することが明らかとなった. であるとすれば,長期生存例における認知機能の面において術前SRS群の方が優れていることが想像されるが,この点については,今後の前向き多施設共同研究の課題として残されている.
尚,本研究ではSRSは術前48時間以内にNovalis TXを用いて実施され,平均辺縁線量は14.8(12.0〜19.0),全脳照射は手術後2〜3週間以内に30〜37.5Gy/10〜15 回で実施されている.一般に,転移性脳腫瘍に対するSRSの辺縁線量は18Gyが必要とされているので,14.8Gyという線量の妥当性も検討すべき課題である.

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

八代一孝

参考サマリー