頭部外傷に対する予防的早期低体温治も無効:446例のRCT(POLAR)

公開日:

2018年12月19日  

最終更新日:

2019年1月11日

Effect of Early Sustained Prophylactic Hypothermia on Neurologic Outcomes Among Patients With Severe Traumatic Brain Injury: The POLAR Randomized Clinical Trial.

Author:

Cooper DJ  et al.

Affiliation:

ANZIC Research Centre, Monash University, Melbourne, Victoria, Australia

⇒ PubMedで読む[PMID:30357266]

ジャーナル名:JAMA.
発行年月:2018 Dec
巻数:320(21)
開始ページ:2211

【背景】

低体温療法は頭蓋内圧をコントロールし,障害を受けた脳組織からの起炎物の放出とそれによる二次障害カスケードをコントロール出来るとの期待から急性期頭部外傷に対する治療の1つとして,1980年代から広く実施されてきた.しかし,そのエビデンスは不確実で,Eurotherm試験では,頭蓋内圧亢進(ICP>20 mmHg)患者に対する低体温療法は,ICPは低下させたが,機能予後はむしろコントロール群より悪かった(2015年,文献1).一方,ICP上昇が確認出来る前の予防的低体温療法については,一定の結論はなく,推奨レベルも低い(文献2).また,これまでの試験における低体温導入の時期,維持期間,復温などの問題も指摘されている(文献3).本POLAR試験は,早期の低体温導入(受傷後3時間以内,目標33℃),長い低体温期間>72時間,ゆっくりとした復温速度<0.25℃という条件で実施されたRCTである.

【結論】

対象は受診時:GCS 4~8で緊急挿管が施行されている頭部外傷患者.低体温群=60,対照=240例.低体温群における中心温は33.5℃であった.受傷後6ヵ月目の予後良好(Glasgow Outcome Scale–Extended score,5~8)は低体温群:48.8%,正常体温群:49.1%で差は無かった.肺炎は55.0%と51.3%,頭蓋内出血の増加率は18.1%と15.4%と差は無かった.この結果から,頭部外傷に対する早期予防的低体温療法は支持されない.

【評価】

本試験はこれまでで最大の患者数で,早期の低体温導入,長期冷却,極めて緩徐な復温という厳しい条件で実施されたRCTであり,いわば低体温療法にとっては背水の試験であった.導入は,4℃生理食塩水を20~30ml/kgで静脈内ボーラス投与するもので,場合によっては着院前に,救急隊員の手によって開始された.実際,受傷から低体温導入開始までの時間は中央値1.8時間という驚異的なスピードであり,また,きわめて緩徐な復温(復温期間中央値22.5時間)のおかげで,復温中の顕著な頭蓋内圧亢進は見られなかった.それでもなお,intension to treat(ITT),per-protocol, per-treatment,いずれの解析でも低体温療法には,機能予後に関するベネフィットを見いだすことは出来ていない.受傷後6ヵ月目の死亡率も21.1%と18.4%と差はない.一方,合併症の中で最大の頻度である肺炎は,per-protocol解析では,低体温群で70.5%,正常体温群57.1%,非調整相対危険度:1.23(p=0.02)と低体温群で有意に多く,易感染性というこの治療に付随するリスクを改めて示している.
既に頭部外傷後の頭蓋内圧亢進症例に対する低体温療法が否定されており,今回,早期予防的低体温療法が臨床的な意義を否定されたわけで,40年近い歴史を有する頭部外傷に対する低体温療法は歴史から消え去る感がする.もちろん,本試験デザインにも幾つかの問題点があり,今後,それらを克服した試験が行われる可能性は否定出来無いが,低体温導入-維持-復温にかかる膨大な医療資源,マンパワーの消費を考えれば,容易に新たな治験が実施できるとは思えない.
若い頃の一時期,この治療に打ち込んだ監修者としては,一抹の寂寥とともに,今の若い人々が無駄な治療のために命を削る事が無くなったことを素直に喜びたい.
一方,院外でのVF/VTによる心停止後自己心拍再開症例に対する低体温療法(TTM:Targeted Temperature Managementと呼ばれている)については,AHAガイドライン2015では32〜36℃,24時間のTTMが推奨されている.

執筆者: 

津村龍   

監修者: 

有田和徳

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