局所性上肢ジストニア(書痙,音楽家ジストニア)に対する視床腹吻側核破壊手術の効果:東京女子医科大学における171例の経験

公開日:

2019年2月12日  

最終更新日:

2019年2月12日

Safety and long-term efficacy of ventro-oral thalamotomy for focal hand dystonia: A retrospective study of 171 patients.

Author:

Horisawa S  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Tokyo Women’s Medical University, Tokyo, Japan.

⇒ PubMedで読む[PMID:30587520]

ジャーナル名:Neurology.
発行年月:2019 Jan
巻数:92(4)
開始ページ:e371

【背景】

ジストニアは持続的な筋収縮によって捻転やパターン化された反復性の運動を示す不随意運動であり,全身性,片側性,局所性がある.局所性ジストニアは,上肢の特別な動作を行う時にのみ出現することが多く,動作特異性局所上肢ジストニア(Task-specific focal hand dystonia: TSFD)と呼ばれる.TSFDには,一般人で認められる書痙が良く知られているが, 音楽家(文献1),美容師,射撃手,テニス選手,ジャグラーなど職業的に手の巧緻運動を繰り返す職業人でしばしば認められ,このため専門キャリアの中断につながることも多い.治療としてはボツリヌストキシン局所注入,精神安定剤,理学療法,脳深部刺激(DBS)などが試みられてきたが,充分な効果を示していない.Tairaらは,この動作特異性局所上肢ジストニアに対して15年以上前から視床腹吻側核(VO核)破壊術を行ってきており,今回連続171例の治療成績を明らかにした.

【結論】

対象患者の内訳は書痙:92例,音楽家ジストニア:58例,その他の職業性動作特異性ジストニア:21例.ジストニア症状の評価にはTubianaらのスコア(1~5;1が最重症)を用いた(文献2).手術前の重症度スコア(1.72 ±0.57)に比較して視床腹吻側核破壊術後,一週間目のスコアは有意に改善しており(4.33 ± 0.85;p<0.001),3ヵ月目,12ヵ月目,最終追跡時(25.4 ± 32.1ヵ月,13~165ヵ月)にもその効果は維持されていた.恒久的な有害事象は6例(3.5%)で認められ.症状再発は18例であり,9例は再手術を受け,このうち7例で改善が認められた.

【評価】

この研究の指導者で第1術者でもあるTairaによれば,書痙や楽器奏者クランプに代表される手の局所性ジストニアは,同一の動作を繰り返すことによって,大脳運動野,淡蒼球,視床,大脳運動野という皮質基底核視床回路(cortico-basal ganglia-thalamic loop)に促通経路が形成され,これがある動作によって発振してしまう結果,生じると考えられる.楽器奏者では20人に1人と高率に認められるという.このようなジストニアが生じた患者では,職業的予後は極めて不良であることが知られている(文献3より抜粋).
著者らは連続171例という多数例を基に,動作特異性局所上肢ジストニア(Task-specific focal hand dystonia:TSFD)に対する視床腹吻側核破壊術が比較的安全な手技であり,平均2年以上の追跡期間中,安定した症状改善効果をもたらすことを明瞭に示した.恒久的な有害事象の発生は,軽度の下肢の筋力低下,構音障害など6例であった.ただし,一過性の有害事象は28例(16.4%)にみられており,著者等も述べているが,充分な経験を積んだ指導者の下での修練が不可欠な手技と思われる.
ちなみに,本文中に音楽家ジストニア92例の演奏楽器が示されており,ギターの26例が最も多く,ピアノ,ドラム,バス,バイオリン,フルート,琴,鼓,ドラム,バンジョー,アコーディオンなどが続いている.また,その他の職業性動作特異性ジストニアとしては,調理師,理髪師,大工などの職業が含まれており,この疾患が広範な専門職種を巻き込むことがわかる.
TSFDは,日常生活動作に影響を与えることが少ないために,そうと診断されずに,心因性として放置されている可能性は高い.このため,人知れず耐えがたい精神的な苦痛を味わったり,キャリアを放棄したりする患者も多いのかも知れない.
ジストニアに対する外科治療としては,両側淡蒼球内節の脳深部電気刺激(DBS)が行われているが,TSFDをターゲットとした報告は少ない.TSFD患者の年齢が若い(本シリーズでは平均37.1歳)ことを考慮すれば,DBSを選択することによって,長い年月にわたって脳内に電極が留置されていること,数年おきに電池を交換するという不便さには配慮されなければならない.TSFDが通常は一側性であること(本シリーズでは85%)も,一側の手術操作ですむ視床腹吻側核破壊術にとっては有利な点である.
本論文は,長くTSFDの治療に取り組んできた著者らの自信と気魄に充ちた優れた臨床研究報告であり,神経疾患にたずさわるものが,一読すべき論文である.今後,多施設RCTで,TSFDに対する視床腹吻側核破壊術の効果が証明されることを期待したい.

執筆者: 

有田和徳

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