膠芽腫に対するテモゾロミドプラス(メマンチン,メトフォルミン,メフロキン):ドラッグリポジショニング

公開日:

2019年3月5日  

最終更新日:

2019年3月7日

Phase 1 lead-in to a phase 2 factorial study of temozolomide plus memantine, mefloquine, and metformin as postradiation adjuvant therapy for newly diagnosed glioblastoma.

Author:

Maraka S  et al.

Affiliation:

Department of Neurology and Rehabilitation, University of Illinois Brain Tumor Center, Neuro-Oncology, Chicago, IL

⇒ PubMedで読む[PMID:30359477]

ジャーナル名:Cancer.
発行年月:2019 Feb
巻数:125(3)
開始ページ:424

【背景】

膠芽腫に対する治療のスタンダードが,可及的摘出+放射線照射+テモゾロミドになって10年以上たつが,充分なエビデンスをそなえながら,これを超える治療成績を示す治療法はTTFくらいで(文献1),まだまだ,beyondドテモゾロミドへの模索が続いている.一方で,種々の癌腫において,既存薬の再評価,再配置研究(drug repositioning,ドラッグリポジショニング)が進んでいる.悪性グリオーマでも,様々な組み合わせで,既存薬の再評価が行われており,最近髄芽腫に対するジゴキシンの有効性を示唆する報告が出た(文献2).テキサス州MDアンダーソン癌センターのチームは,メマンチン(メマリーⓇ,認知症薬),メトフォルミン(糖尿病薬),メフロキン(抗マラリア薬)という,直接には抗癌作用目的では使用されていない薬剤の膠芽腫に対するドラッグリポジショニングの可能性を検討している.本論文は2相の用量設定を目指した1相試験の結果である.対象は初発膠芽腫85例.

【結論】

膠芽腫患者に,テモゾロミド+放射線照射の標準治療に加えて,3種の既存薬のうち1種,2種,3種の内服をさせた.3種全部を服用させたアームにおける最大耐容量はメマンチン10mg×2回/日,メフロキン250mg×3回/週,メトフォルミン500 mg×2回/日であった.容量制限毒性にはメマンチンによるめまいやメトフォルミンによる消化器症状が含まれた.リンパ球減少が最も多い有害事象であった(66%)が,これはテモゾロミドの有害事象と重なっている可能性がある.エントリーからのOS中央値は21ヵ月,2年生存率は43%であった.

【評価】

ドラッグリポジショニング(drug repositioning)または既存薬再開発とは,特定の疾患に有効な既存の治療薬から,別の疾患に有効な薬効を見つけ出す研究手法である.ドラッグリポジショニングに使われる医薬品は,すでにヒトでの安全性や薬物動態の試験が済んでいるため,いくつかの試験をスキップでき,また薬剤の製造方法が確立しているため開発期間の短縮・研究開発コストを低減できる(以上Wikipedia).悪性グリオーマに対しても,ドラッグリポジショニングの基礎・臨床研究は進んでおり,ドイツからは再発膠芽腫に対する低容量テモゾロミド+9種類の既存薬の組み合わせによるプロトコールが発表されている(文献3).これまで悪性神経膠腫でターゲットとなった薬剤には抗てんかん剤(バルプロ酸,レベチラセタム,ペランパネル),抗精神病薬(オランザピン,フルボキサミン,フルスピリレン),スルフォサラジン(炎症性腸疾患の薬剤),メトフォルミン(2型糖尿病治療薬),ジスルフィラム(慢性アルコール中毒薬)などがある.日本からは,中田らがGSK3β(glycogen synthase kinase 3β)の阻害作用を持つ4種類の既存薬(CLOVAカクテル)を使用した再発膠芽腫患者の治療結果を報告している(文献4,5).
本論文の研究で用いたメマンチンはNMDA受容体拮抗薬で,抗認知症薬として使用されているが,細胞内への過剰なカルシウムイオンの流入を抑制し,神経細胞傷害や記憶・学習障害を抑制する.動物実験で膠芽腫を含む悪性グリオーマの腫瘍増殖を抑制することがわかっている.
メフロキン,クロロキンなどの抗マラリア薬はDNAへの挿入やリゾゾーム機能の抑制を通して抗腫瘍効果を発現することが示唆されており,膠芽腫患者での効果が報告されている.
メトフォルミンは,長い歴史を有するビグアナイド系抗糖尿病薬であるが,同剤を服用中の患者では乳癌のネオアジュバント治療に著効する率が高いことが報告された.Cyclin D1発現の抑制とアポトーシスの誘導,血管新生抑制,AMPKの活性化,mTORの阻害を通して抗腫瘍効果を示すと報告されている.
本研究結果を通して,今後の第2相試験で使用可能な薬剤用量設定が出来ることになった.ちなみに本研究対象患者におけるOS中央値は21ヵ月と,Stuppらのテモゾロミド+放射線照射群の14.6カ月よりずいぶん長いが,対象の中にIDH-1変異陽性例が13%含まれており,またMGMTプロモーターメチル化症例の頻度が不明であるため,このOS延長が既存薬の追加による恩恵と言うのは早計である.
この報告以外に,現在,IDH-1/IDH-2変異陽性膠芽腫に対するクロロキンとメトフォルミンの併用の臨床研究(Ib/II)が進行中であり,その結果も楽しみである(文献6).
悪性腫瘍に対するドラッグリポジショニングの成功例としては,多発性骨髄腫に対する睡眠薬サリドマイドが有名ではあるが,実用までこぎ着けたものは数少ない.創薬,基礎実験に関わる時間・費用はほとんどかからないものの,臨床試験の積み重ねが必要な点は新薬と同じである.特許切れの薬剤や稀少疾患が対象の場合は,ドラッグリポジショニングによる製薬メーカーが受ける恩恵は少ないので,製薬メーカーからの資金調達は望みにくく,公的資金によるサポートが不可欠である.今後の制度整備に期待したい.
なお,本論文の主旨とは関係ないが,authors listを眺めると本論文の著者16人のうち筆頭著者を含む9人が,研究実施時(2011~2015)以降,本論文投稿(March,2018)までに所属を変わっていることがわかる.そのうち多くはテキサス州以外の施設であり,米国の研究者人口の流動性の高さを反映しているのかも知れない.

執筆者: 

有田和徳

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