日本人多発性硬化症患者のT2病変の数は少なくて大きい:MRI所見に関する国際共同研究から

公開日:

2019年3月18日  

最終更新日:

2019年3月20日

A comparison of brain magnetic resonance imaging lesions in multiple sclerosis by race with reference to disability progression.

Author:

Nakamua Y  et al.

Affiliation:

Department of Neurology, Neurological Institute, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University, Fukuoka, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:30185189]

ジャーナル名:J Neuroinflammation.
発行年月:2018 Sep
巻数:15(1)
開始ページ:255

【背景】

九州大学のNakamuraらは,コーカシアンと比較した日本人の多発性硬化症(MS)患者の臨床的かつ画像診断上の特徴を明らかにするために,再発寛解型多発性硬化症に対するT細胞移出抑制作用を有するフィンゴリモドの第2相試験(日本:2007年10月~2010年2月,ヨーロッパ:2003年5月~2004年4月)で集積された日本人95名とコーカシアン246名の後方視的比較を行った.

【結論】

コーカシアンに比較して日本人MS患者では,臨床的な重症度は低く(平均EDSSスコア 2.0 vs. 2.3,p=0.008),T2強調MRI上の病変の数は少ない傾向であり(中央値 50 vs. 65, p=0.08),小脳と頭頂葉病変は有意に少なかった(共にp=0.02).T2強調病変一個あたりの体積は有意に大きく(p<0.001),T2強調病変の総体積は臨床スコア(EDSS)と正相関していたく(p<0.001).標準化(normalized)脳体積,標準化白質体積,標準化深部灰白質体積,標準化視床体積は日本人で有意に小さかった(p<0.05).

【評価】

これまでも,日本人とコーカシアンのMS病変の比較研究はいくつかあったが(文献1,2),本研究は,MS患者のMRIを共通のイメージプロトコールを用いて比較した最初の研究である.MRI画像は,欧米人152人の脳と頭蓋をもとに作成された標準脳MNI152を基準としてStructural Image Evaluation Using Normalization of Atrophy X(SIENAX)プログラムを用いて中央解析された.その結果,年齢,性比,罹病期間などの背景因子を調整後のコーカシアンと日本人の再発寛解型MS患者におけるMRI画像の相違点,臨床像との関係における相違点がいくつか明らかになった.
特に,著者等が強調しているのは,①日本人ではT2病変の数,特に小脳や頭頂葉病変の数が少なかった.これがコーカシアンよりも臨床的重症度が軽い理由かもしれない.一方で,②日本人では1個あたりのT2病変の体積が大きく,T2病変総体積と臨床的重症度が相関しており,これは日本人のMS患者の身体機能障害において,神経軸索変性より,炎症の影響の方が大きいことを示唆しているという.
人種毎の画像と臨床像の相違の背景としては,本研究への登録前の疾患修飾薬(インターフェロンなど)や免疫抑制剤の使用頻度の差(日本人が圧倒的に多い.56.8 vs. 28.5 %,p<0.0001),あるいは日本人MS患者の30~40%でみられるHLA-DRB1*04:05タイプ(コーカシアンでは稀である)の頻度差などを上げている.日本人ではT2病変が大きいことと関連して,アジア人とコーカシアンにおけるtumefactive MSの発生頻度の違いも紹介されているが(6.3% vs. 0.1~1.4%)(文献3),日本人を含むアジア人ではMSにおける局所炎症メカニズムの制御障害があるのかも知れない.
より根本的に,何が日本人とコーカシアンのMS患者における画像と臨床像の相関の差を生み出しているのか,遺伝的要因,環境要因,保険医療供給を含めた社会的要因など検討すべき課題は多い.
また,本研究では1.5TMRI装置を用い,通常の撮像シーケンスで得られたデータを解析しているが,MS病変の検出感度が上がることが知られている3T,7Tなどのより高磁場MRIを用いての比較ではどうなるのか,またMRS, double inversion recovery(DIR), 拡散尖度画像などの新しい画像撮影・解析方法ではどうなるのか(文献4),画像解析のための標準脳としてアジア人をベースにしたものも使用したらどうなるのか,さらに脊髄病変ではどう違うのか,興味はつきない.ちなみに,本研究の本体部分であるT細胞抑制剤フィンゴリモド(FTY720)は,Isaria sinclairii(冬虫夏草菌の一種)に含まれる成分ミリオシン(Myriocin,ISP-1)の免疫抑制効果が注目され,その構造変換によって開発された化合物で,リンパ球のリンパ節からの移出を抑制する.これによって,自己免疫性T細胞の脳への遊走を抑制することによりMSの再発が抑制されていると考えられている.2010年に発表された第三相試験(FREEDOMS)では,MSの年間再発率を有意に抑制した(0.4 vs 0.18,p<0.001)(文献5).FREEDOMSに加えて,国内二相試験の結果も受けて,2011年11月に「多発性硬化症の再発予防及び身体障害の進行抑制」を効能・効果として薬価基準収載されている.製品名はジレニア(ノバルティスファーマ)とイムセラ(田辺三菱製薬).

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

神田直昭

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