急性/慢性硬膜下血腫で認められる非てんかん性の常同性再発性症状(NESIS):新しい臨床像の提案

公開日:

2020年7月22日  

最終更新日:

2020年7月23日

Nonepileptic, Stereotypical, and Intermittent Symptoms (NESIS) in Patients With Subdural Hematoma: Proposal for a New Clinical Entity With Therapeutic and Prognostic Implications

Author:

Levesque M  et al.

Affiliation:

Division of Neurology, Department of Medicine, Université de Sherbrooke, Centre de Recherche du Centre Hospitalier Universitaire de Sherbrooke, Sherbrooke, Canada

⇒ PubMedで読む[PMID:31555809]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2020 Jul
巻数:87(1)
開始ページ:96

【背景】

急性あるいは慢性硬膜下血腫では腫量の増大に伴って徐々に症状が出現すると信じられている.しかし,カナダ国シェルブルック大学神経内科などのチームは,硬膜下血腫患者の中に常同性の一過性症状を繰り返す患者がいることに気づいていた.その一部は脳波異常を伴い症候性てんかんと診断されるが,脳波異常を伴わない者も多い.著者らは,これを非てんかん性の常同性再発性(間欠性)症状(NESIS)として,硬膜下血腫の新たな臨床像として提案している.この後ろ向き研究は,種々の理由で脳波検査が実施され,かつ一過性症状を示した59名の硬膜下血腫患者を対象とした.半数が慢性硬膜下血腫であった.

【結論】

症状出現中に痙攣や意識障害がなく,陰性徴候を示す,5分以上続く,失語を伴うなどの特徴を示し,脳波異常を伴わない39例をNESISと診断し,それ以外の脳波異常を伴う20例を対照とした.NESIS群は対照群に比較して有意に抗けいれん剤への反応が悪く(11% vs 67%,p=0.007),死亡率は低かった(3% vs 42%,p=0.003).
陰性徴候(4点),5分以上の症状持続(3点),失語(3点),意識障害(-3点),痙攣(-3点)などをスコア化して+4点以上でかつ脳波異常がないものをNESISと診断すると,感度97%,特異度100%でNESISを診断出来た.

【評価】

硬膜下血腫患者はある段階から神経症状や意識障害を呈し,血腫除去などによる根治的治療まではそれらの症状が続くというのが一般の理解であるが(文献1),そうではなく,著者等の観察によれば,神経症状が根治的治療の前あるいは後で間欠的に出現することがあるらしい.その中には症候性てんかんも含まれるが(文献2),脳波異常がなく,抗けいれん剤でコントロール出来ない症状があり,著者等はこれをNonepileptic,Stereotypical,and Intermittent Symptoms(NESIS)と称している.患者の約半分は慢性硬膜下血腫であった.NESISの臨床的特徴は,陰性徴候,5分以上持続,失語を示すなどで,症候性てんかんとは異なり意識障害や痙攣はないとされている.
気になる成因であるが,彼らによれば,クモ膜下出血,脳梗塞,頭部外傷,偏頭痛などで認められる皮質拡延性抑制(Cortical Spreading Depression;CSD)が関与しているという.CSDは大脳皮質上を波紋のごとくゆっくり(2~6 mm/min)と拡大する神経細胞の脱分極の波である.正常脳では神経細胞は脱分極後直ちに再分極するが,エネルギーサプライが障害された病的な皮質ではそのメカニズムが失われており,神経脱落症状(陰性徴候)を呈することになるという.
また,彼らは,CSDの動物実験の結果から,NESISに対する治療としてトピラメートやラモトリギンの使用を示唆している.
硬膜下血腫に対するNESISが一体いつ発症するのか(血腫除去の前か後か),急性硬膜下血腫と慢性硬膜下血腫それぞれにおけるNESISの頻度は違うのか,なぜNESIS患者の方が生命予後が良いのか,判らないことは多い.また,意識障害は陰性徴候のはずであるが,NESISでは見られないのは何故か.また,本研究では対照群とされた硬膜下血腫に伴う症候性てんかんという診断も正しいのかという疑問も残る.
著者等は,Response to letterの中で(文献3),Broca失語だって一例報告で,パーキンソン病だってわずか6例で疾患概念が発表された事にふれ,まだ未成熟のアイデアをいち早く公表することが,疾患の理解と治療法の開発を加速するのだと言っている.
彼らは現在進行中のGENESIS研究でNESISの疫学や治療法を明らかにしようとしている(文献4).その結果に期待したいが,MRI,fMRI,ASL,長期脳波モニタリングなどを駆使して,この病態が独立したものであるのか,そうであればその発生のメカニズムを明らかにすることは非常に重要である.

執筆者: 

岡田朋久   

監修者: 

飯田幸治

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