機械的血栓除去術単独はtPA後機械的血栓除去術に対して非劣性を示さず −しかし−:日本のSKIP試験

公開日:

2021年1月25日  

最終更新日:

2021年3月5日

Effect of Mechanical Thrombectomy Without vs With Intravenous Thrombolysis on Functional Outcome Among Patients With Acute Ischemic Stroke: The SKIP Randomized Clinical Trial

Author:

Kimura K (correspondent)   et al.

Affiliation:

Department of Neurology, Nippon Medical School, Tokyo, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:33464334]

ジャーナル名:JAMA.
発行年月:2021 Jan
巻数:325(3)
開始ページ:244

【背景】

急性期脳主幹動脈閉塞に対する機械的血栓除去治療(MT)が普及している.現在は,tPA静注療法に追加して発症6時間以内にMTを開始することが勧められる(文献1).しかし,MTに先行するtPA投与が本当に必要か否かは明らかではない.日本医科大学のKimuraらは全国23施設で,脳主幹動脈閉塞による急性期脳梗塞に対するMT単独のtPA+MTに対する非劣性RCTを行った.MT単独は101例,tPA+MTは103例に実施された.一次評価項目は発症90日目における良好機能予後(mRS:0~2)で,非劣性マージンはオッズ比0.74とした.その他の事前設定評価項目は有効性7,安全性4の合計11項目とした.

【結論】

一次評価項目の良好機能予後はMT単独群で59.4%,tPA+MT群で57.3%であり,2群間で差はなく(オッズ比1.09,97.5%片側信頼区間0.63 − ∞,非劣性p=.18),信頼区間下限は非劣性マージンを上回らなかった.
その他の事前設定評価11項目のうち90日間死亡を含む10項目は2群間で差はなく,全頭蓋内出血だけがMT単独群で有意に少なかった(33.7 vs. 50.5%,オッズ比0.50,p=.02).症候性頭蓋内出血は2群間で差はなかった(5.9 vs. 7.7%,オッズ比0.75,p=.78).

【評価】

急性期脳梗塞に対するMTは,その有効性が広く認識されて以降(文献2),急速に普及しているが,その多くがtPA静注療法の直後に実施されている.tPA後にMTを行う事は,MT単独に比較して再開通率が高いことが期待出来る反面,症候性頭蓋内出血が増加するリスクが危惧される.現在,tPA投与なしにMTを実施することがtPA+MTに対して非劣性であるのか,あるいは優越性であるのかに大きな関心が寄せられている.2016年のGoyalらのメタアナリシスでは,tPA投与の有無でMTの結果には差はなかった(文献2).しかし,MistryらのメタアナリシスではtPA+MTがMT単独に比較して良好な結果と相関していることも報告されている(文献3).
日本における本SKIPに先行して2020年にNEJM上で発表された中国での非劣性RCTであるDIRECT-MTでは,一次評価項目は発症90日目における2群間のmRS(0~6)分布における非劣性(マージン:0.8)であった.その結果,MT単独はtPA+MTに対して非劣性が証明された(mRS中央値3 vs. 3,調整共通オッズ比1.07,[95%CI 0.81~1.40])(文献4).このDIRECT-MT試験ではMT群の調整共通オッズ比の95%CI下限が0.81で,事前設定マージンの0.8をかろうじて上回っていた.
残念ながら,日本のSKIP-RCTは一次評価項目におけるtPA後MT群に対するMT群のオッズ比の97.5%片側信頼区間の下限(0.63)が事前設定マージンの0.74を下回ったために,非劣性を証明出来なかった.
しかし,日本のSKIP試験で一次評価の対象とした90日目におけるmRS:0~2はMT単独群59.4%であり,tPA+MT群の57.3よりむしろ良い.それにもかかわらず,日本のSKIP試験が非劣性を証明し得なかったのは広い信頼区間すなわち症例数の少なさ(中国654例,日本204例)のせいかも知れない.仮にSKIP試験の症例数を400例とするとオッズ比の97.5%片側信頼区間の下限値は0.76となり事前設定の非劣勢マージンを上回る(本サマリー監修者の試算).ちなみにDIRECT-MTでは,mRS:0~2はMT単独群36.4%,tPA+MT群36.8%であった.
このSKIP試験の著者らも,オッズ比の信頼区間が0.63 − ∞と広いので,必ずしもMT単独はtPA+MTに対して劣性という結論は下せないと述べている.また,本試験でMT単独の非劣性が証明できなかったもう一つの理由として,MT単独群,tPA+MT群共にmRS:0-2の割合が当初の想定より高かったことが,統計検定力の低下につながった可能性があると示唆している.
MT単独 vs. tPA+MTのRCTに関しては既に公表された中国のDIRECT-MT試験,日本のSKIP試験以外に3個の試験が進行中である(MR CLEAN-NO IV[ISRCTN80619088],SWIFT DIRECT [NCT03192332],DIRECT-SAFE [NCT03494920]).
これらの結果が楽しみであるが,当然これら5つの試験を対象としたメタアナリシスが実施されるので,より強い検定力でMT単独の非劣性が示されるかも知れない.

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

内田裕之,神田直昭