慢性硬膜下血腫に対するデキサメタゾン一次投与は手術の必要性を減らし予後を改善させるか:英国における748例の多施設RCT

公開日:

2021年1月11日  

最終更新日:

2021年1月12日

Trial of Dexamethasone for Chronic Subdural Hematoma

Author:

Hutchinson PJ  et al.

Affiliation:

Divisions of Neurosurgery, Addenbrooke's Hospital, University of Cambridge, Cambridge, UK

⇒ PubMedで読む[PMID:33326713]

ジャーナル名:N Engl J Med.
発行年月:2020 Dec
巻数:383(27)
開始ページ:2616

【背景】

慢性硬膜下血腫はありふれた疾患で多くは1回の穿頭洗浄術で寛解するが,なかには再発を繰り返す例もある.慢性硬膜下血腫に対する薬物療法としてはステロイドホルモン(グルココルチコイド),トラネキサム酸,スタチン,五苓散などが試されているが(文献1,2,3,4,5),レベルの高いエビデンスはない.本研究は英国の多施設共同で実施されたRCTである.対象は慢性硬膜下血腫の診断で入院した748例(平均74歳).375例(Dx群)にはデキサメタゾン(初日から3日間は8 mg×2回/日,その後14日目の2 mg ×1回まで漸減)が投与され,373例には偽薬が投与された.

【結論】

初回入院中の担当医師団の判断に基づく血腫除去術施行率はDx群91.7%,偽薬群89.2%で2群間に差はなかった.6ヵ月目の転帰良好(mRS 0~3)の割合はDx群は83.9%で,偽薬群90.3%より有意に低かった(差は−6.4[95%CI,−11.4 to −1.4],p=.01).再手術率はDx群1.7%で,偽薬群の7.1%より低かった(オッズ差:−5.4[−8.7〜−2.5]).術野感染はDx群で8例,偽薬群4例であった.重篤な有害事象はDx群16.0%で,偽薬群の6.4%より多かった(p<.001).

【評価】

著者らの仮説はデキサメタゾンの抗炎症作用によって,機能予後の改善,手術療法の必要性の減少,再手術の回避を狙ったものであるが,初回手術の必要性(約90%)に差はなく, 6ヵ月目の転帰良好の割合はむしろ偽薬群より低かった(83.9 vs. 90.3%).ただし,デキサメタゾン投与は再手術の必要性は有意に減少させた(1.7 vs. 7.1%).
うーん.何で非手術治療にこだわるんだろうというのが第1の疑問で,何でデキサメタゾン総計124mgという大量投与なんだろういうのが第2の疑問である.
慢性硬膜下血腫にかかる穿頭洗浄手術を含む入院医療費は日本では約10日入院を含めて70万円くらいだが,英国における医療費削減への圧力は日本よりも強いのだろうか.日本では慢性硬膜下血腫に対する穿頭洗浄手術は,基本的には脳外科医1名で局所麻酔下で行う手術であるが,欧米では基本的に全身麻酔下で実施されているという背景があるのかもしれない.
また,124mgのデキサメタゾンは3,100 mgのヒドロコルチゾンに匹敵する.これだけのグルココルチコイドを2週間で投与すると,本研究でも見られたように,感染,高血糖,精神症状などの有害事象は当然高頻度で起こり得る.
慢性硬膜下血腫に対する初回入院段階でのデキサメタゾン投与の有効性は,今回の試験で完全に否定されたものと思われる.
しかし,ほぼ同時に発表されたオーストラリアでの穿頭洗浄術+ドレナージ後のデキサメタゾン投与のRCTの中間解析では,少数例(47例)での検討であるが,再発は対照群では21%であるのに対してデキサメタゾン群では認められていない(p=.049)(文献6).
今後は再発予防に特化したデキサメタゾン投与について検討が進むのかも知れない.
日本では,慢性硬膜下血腫の増大予防や再発予防のための五苓散の投与は一般的に行われているが,最近再発予防に関する2つの前向き試験の結果が公表されている(文献3,5).

執筆者: 

有田和徳