脳静脈血栓症に対する血管内治療は抗凝固療法単独に勝る効果はない:ACTION-CVT研究の987例

公開日:

2022年9月30日  

最終更新日:

2022年10月24日

Endovascular Therapy for Cerebral Vein Thrombosis: A Propensity-Matched Analysis of Anticoagulation in the Treatment of Cerebral Venous Thrombosis

Author:

Siegler JE  et al.

Affiliation:

Department of Neurology, Cooper Neurological Institute, Cooper University Hospital, Camden, New Jersey, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:36001776]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2022 Aug
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

脳静脈血栓症に対する血管内治療の有効性に関する報告はあるが,そのエビデンスレベルは低く,ガイドライン上の推奨度も低い(文献1~4).また,2020年発表の世界初のRCT(TO-ACT試験)でも,血管内治療の有効性を示すことは出来ていない(文献5).本研究(ACTION-CVT)は,2015年から6年間に世界27施設で治療された脳静脈血栓症987例(平均45.7歳,女性63%)についての後方視的解析である.908例が治療用量の抗凝固療法のみを受け(薬物療法群),79例(8%)が抗凝固療法に加えて血管内治療を受けた(EVT群).解析には傾向スコアマッチング法(PSM)と逆確率重み付け法(IPTW)を用いた.

【結論】

PSM解析では両群から62例ずつ合計124例を抽出して比較した.
薬物療法群と比較したEVT群の一次アウトカム(90日目のmRS:0~1)の達成は,PSM解析ではOR:1.48(95%CI,0.55~3.96),IPTW解析ではOR:1.02(0.34~3.06)で,2群間に差はなかった.IPTW解析では,EVT群は90日目mRSが高いグレードに有意にシフトしており,死亡率も有意に高かった.他の二次アウトカムはいずれの解析でも差はなかった.
本研究のPSM解析群124例とTO-ACT試験の67症例を併せてPSM解析とIPTW解析を行っても,2群間で一次アウトカムの達成率に差はなかった.

【評価】

2020年発表のTO-ACT試験は,抗凝固治療+血管内治療(機械的血栓除去 and/or 血栓溶解剤注入) vs. 抗凝固治療単独(治療用量のヘパリン投与)に関する世界で初めてのRCTであった.しかし,一次アウトカムである12ヵ月の時点でのmRS:0~1は,血管内治療群67%,抗凝固治療単独群68%で差はなかった.本稿のACTION-CVT研究は,世界27施設で治療された脳静脈血栓症987例を対象として,いわばリアルワールドでの臨床データを傾向スコアマッチング法(PSM)と逆確率重み付け法(IPTW)を用いて解析したものである.その結果,一次アウトカム(90日目のmRS:0~1)は,数値上は治療量の抗凝固薬単独治療群がやや高かった(78.6% vs. 64.3%)が,PSM解析でもIPTW解析でも2群間で差はなかった.すなわち,脳静脈血栓症に対して治療量の抗凝固療法に血管内治療を加えることの意義を,再び否定するものとなった.また,このACTION-CVT研究の解析対象をTO-ACT試験の患者選択基準を満たす583例に限っても,あるいはこのACTION-CVT研究のPSM解析群124例に先行するTO-ACT試験の症例を加えてメタアナリシスを行っても,やはり2群間で差はなかった.
それどころか,IPTW解析では,血管内治療群の方がmRSが有意に高いグレード(機能予後不良)にシフトしており,死亡率も有意に高かった.
180日目の再開通率に関しては,数値上は抗凝固単独治療がやや高かった(30.4% vs. 26.1%)が,PSMでもIPTWでもやはり有意差はなかった.TO-ACT試験に続く,このACTION-CVTも,脳静脈血栓症に対する血管内治療にとっては挽歌とも言える結果であったが,血管内治療で完全再開通が得られた症例に限れば,一次アウトカム達成の頻度は,抗凝固単独治療群に比較して有意に高かった(10/11[90.9%] vs. 410/513[79.9%],IPTW解析による調整OR:11.88,95%CI:2.88~49.04).今後,血管内治療機器や手技の改善によって血管内治療での閉塞静脈の完全再開通率が向上すれば,脳静脈血栓症に対する血管内治療が再び日の目を見る時が来るかも知れない.それまでは,抗凝固治療下でのコントロールが困難な頭蓋内圧亢進や進行性の静脈閉塞を示すものに限定して,血管内治療を使用せざるを得ないような気がする.

<コメント>
脳静脈洞血栓症に対する血管内手術については,局所的にウロキナーゼやtPAなどを投与し良好な結果を得たという報告や,最近ではステントリトリーバーや吸引カテーテルを用いた機械的血栓回収術の有効性が複数のケースシリーズで示されているが,それらのエビデンスレベルは低かった.本疾患に対しては,AHAの治療アルゴリズム(Stroke 2014;45. e16-18)でも,まずは症状に対する対症療法及び抗凝固療法が推奨されており,その中で予後不良の症例に限って脳血管内治療を考慮してもよいと記載されている.TO-ACT及びACTION-CVTにおいては,18歳以上で,予後不良因子(mental status disorder,coma state,intracranial hemorrhage,deep cerebral venous system involvement)を1つ以上含むものが,血管内手術の対象となっている.しかし,これらの研究に対しては,症例数が少ないこと(TO-ACT:血管内33例,ACTION-CVT:血管内79例),早期の静脈再開通の評価基準が不明瞭であること(部分再開通 or 完全再開通),血管内手術手技が統一されていない(angioget,stent retriever,balloon angioplasty,Fogarty catheterなど多岐)などといった問題が指摘できる.
急性期脳主幹動脈閉塞に対する機械的血栓回収術は今では標準治療としての位置を確立している.しかし,ホノルル・ショックで有効性が否定された複数の急性期脳主幹動脈閉塞のRCTでは今回の脳静脈洞血栓症に関する研究と同様の研究デザイン上の問題が指摘されていた.脳静脈洞血栓症においても血管内治療の有効性を示すには症例選択や治療手技の統一が今後求められていくであろう.少なくとも現時点でも,重症の経過をたどる症例に対する脳血管内手術が否定されているわけではないと考える.(広島大学脳神経外科 堀江信貴)

執筆者: 

有田和徳