特発性頭蓋内圧亢進症に伴う静脈洞狭窄症では狭窄部前後の圧格差が低くてもステント術が有効

公開日:

2022年10月25日  

最終更新日:

2022年10月28日

Venous Sinus Stenting for Low Pressure Gradient Stenoses in Idiopathic Intracranial Hypertension

Author:

Mehmet Enes Inam  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, University of Texas Health Science Center at Houston, McGovern Medical School, Houston, Texas, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:35960743]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2022 Nov
巻数:91(5)
開始ページ:734

【背景】

脳静脈洞狭窄は特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)の主要な原因の一つである(文献1).これまでは,主として狭窄部前後の圧格差が大きな症例に対するステント術の有効性が報告されてきた(文献2,3).本稿は,圧格差が低い症例に対するステント術の有効性の検討である.対象はテキサス大学ヘルスサイエンスセンターでステント術を受けたIIH患者53症例(女性70%,平均32歳,平均BMI:36)で,全例うっ血乳頭などの眼科的検査での異常,高い髄液圧>20 cmH2O,非侵襲的画像検査ならびに血管撮影で静脈洞狭窄を呈した.狭窄部前後での圧格差(mmHg)は≦4:9例,5~8:18例,>8:26例であった.

【結論】

3群(≦4,5~8,>8)における術前の平均髄液圧(腰椎穿刺初期圧)は28,35,36 cmH2Oで差はなかった.
ステント術後6ヵ月目の3群の髄液圧低下幅の平均値は13.4,12.9,12.4 cmH2Oで差はなく,うっ血乳頭,網膜神経線維層厚(NFL),ハンフリー視野の改善率にも差がなかった.頭痛,耳鳴,視機能障害の改善率はいずれも80%以上と高く,3群間に差はなかった.合併症は2例に生じ,1例は鼻出血,1例は骨盤内出血で輸血は要さなかった.
この結果は,狭窄部前後の圧格差が小さいIIHでも,圧格差が大きいIIHと比較して,狭窄部へのステント術の効果に差はない事を示唆している.

【評価】

2003年のFarbらの報告によれば,特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)の93%に静脈洞狭窄が認められる(文献4).また,2017年のLevittの報告では静脈洞狭窄が認められたIIH症例の35.4%で,狭窄部前後の圧格差が>8 mmHgであったという(文献5).近年,こうした特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)を呈する静脈洞狭窄症に対するステント術の有効性が報告されている(文献6,7).ただし,従来は主として,狭窄部前後での圧格差が4~21 mmHgと大きい症例が,この静脈洞ステント術の対象に選ばれていた(文献2,3).本稿は単一施設での経験ではあるが,圧格差が<4 mmHgと小さい症例でも,圧格差が大きい症例と同様に,髄液圧(腰椎穿刺)の低下が得られ,うっ血乳頭をはじめとする眼科的な検査所見,臨床症状の改善が得られることを示している.
この報告が事実とすれば,インパクトの強い発見である.2021年,Miahらは,英ウェールズにおける特発性頭蓋内圧亢進症(ICP>250 mmH2O)の有病率は76/10万人と報告している(文献8).もし,そのほとんどに静脈洞狭窄が認められ,本稿のように圧格差の大小にかかわらずステント留置による恩恵がもたらされるとしたら,血管内治療専門医にとって大変に大きな医療需要が潜在することになる.
そもそも,静脈洞狭窄はIIHの原因であろうか.そうであるとすれば,肥満,女性などのIIHのリスク因子(文献8)が静脈洞狭窄とどう関係しているのであろうか.もっと言えば,画像上の静脈洞狭窄は頭蓋内圧亢進の結果ではないのか.既に,IIHに対するVPシャントが画像上の静脈洞狭窄を改善させることは報告されている(文献9).
さらに興味深いのは,本シリーズ53例では,大きなくも膜顆粒による静脈洞狭窄が8例(15%)に認められたことで,圧格差が低い群(≦4)では44%(4/9)を占めていたことである.従来の理解では,大きなくも膜顆粒というのは,くも膜顆粒が次第に大きくなったものではなく,生来のもの,すなわち正常変異(破格)である.静脈洞を占拠するような大きなくも膜顆粒を有する患者における自然史やIIHの頻度も知りたいと思う.
まずは,IIH患者における静脈洞狭窄の頻度,大きなくも膜顆粒の頻度,シャント後の狭窄部位の変化などが,大規模研究で明らかになることを望みたい.

<コメント>
本邦の脳血管内治療医の間では,特発性頭蓋内圧亢進症を呈する静脈洞狭窄症に対するステント治療はほとんど行われていないであろう.その理由として,本疾患に対するステントが適応外であること以外に,病態が明らかでないことが挙げられる.脳静脈には左右の頚静脈以外にも多くの流出路があり,静脈洞交会以外の慢性的な狭窄あるいは閉塞の多くは無症候である.この報告では一側の横静脈洞あるいはS状静脈洞にステントが留置されているようである.さらに非優位側に留置されている例も多く,これが脳循環に大きな影響を及ぼすとは考えにくい.
しかし本報告での臨床症状の改善はきわめて良好であり,本治療法の有効性が示唆されている.また従来は効果が低いとされていた,静脈圧格差の小さい症例でも,それが大きい症例と同様に有効性が示されている.これは静脈洞の圧格差が特発性頭蓋内圧亢進症の病態の本質ではないことを示唆しているのではないだろうか.
また留置されたステントの開存に関しての懸念もある.本報告ではステント血栓症の予防として抗血小板薬を用いているが,通常静脈内の血栓予防には抗凝固薬を用いることが多く,抗血小板薬では閉塞する症例が多いのではないかと思う.
著者もコメントしているように,この治療法の有効性を明らかにするにはランダム化試験が必要であろう.また大きな問題として,このような稀少疾患に対する医療機器の適応拡大を企業が行うことはきわめて困難なことである.しかし現在, 特発性頭蓋内圧亢進症 の決定的な治療法はなく,その転帰はきわめて不良であるので,もし有効性が明らかになれば医師主導でステントの適応拡大をすべきであろう.
(筑波大学脳神経外科 脳卒中予防・治療学 松丸祐司)

執筆者: 

有田和徳

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