脳底動脈の急性閉塞に対する12時間以内の血管内治療は良好な機能予後をもたらす:中国におけるATTENTION研究

公開日:

2022年10月25日  

Trial of Endovascular Treatment of Acute Basilar-Artery Occlusion

Author:

Tao C  et al.

Affiliation:

The Stroke Center and Department of Neurology, First Affiliated Hospital of the University of Science and Technology of China (USTC), Hefei, China

⇒ PubMedで読む[PMID:36239644]

ジャーナル名:N Engl J Med.
発行年月:2022 Oct
巻数:387(15)
開始ページ:1361

【背景】

脳底動脈急性閉塞に対する血栓回収治療の有効性のエビデンスは確立していない.
本稿は,中国36病院が参加したRCT(ATTENTION)の結果である.発症後12時間以内に確定診断された脳底動脈急性閉塞で,PC-ASPECTS≧8,NIHSS≧10の患者507例が登録され,2:1の割合で,血栓回収治療群と薬物治療単独(対照)群に無作為に割り付けられた.
340例がITT解析の対象となり,この中では226例が血栓回収群で,114例が対照群であった.NIHSS中央値は共に24点であった.経静脈的血栓溶解剤は31%と34%で使用された.一次アウトカムは発症90日目の機能予後良好(mRS≦3)とした.

【結論】

一次アウトカムは血栓回収群で104例(46%),対照群で26例(23%)に発生し,調整率比2.06(CI:1.46~2.91,p<.0001)であった.症候性頭蓋内出血は血栓回収群で5%,対照群では発生しなかった.90日目までの死亡率は,血栓回収群37%,対照群55%,調整リスク比0.66(CI,0.52~0.82)であった.治療手技に伴う合併症は,血栓回収群で14%に生じ,これには動脈穿孔による死亡1例が含まれた.
脳底動脈急性閉塞に対する血栓回収は薬物治療単独に比較して有意に高い機能予後良好をもたらしたが,治療手技に伴う合併症と症候性頭蓋内出血のリスクを伴った.

【評価】

脳底動脈閉塞は脳主幹動脈急性閉塞による脳梗塞の10%を占めており,その予後は極めて悪く,死亡率は50%に達する(文献1,2).既に,前方循環閉塞に対する血栓回収治療の有効性は確立しており(文献3),世界中で普及している.かたや椎骨脳底動脈系の閉塞に対しては,血栓回収治療の有用性が示唆されてきたものの,その根拠となっているのは前向き登録試験や症例シリーズのメタ解析であり,エビデンスレベルは低かった(文献4,5).
2020年に公表された,BASILAR研究は中国の47包括的脳卒中センターで実施された連続前向き登録研究であるが,血栓回収治療群では標準薬物治療群に対して症候性頭蓋内出血の頻度は高まるものの,機能予後良好例が多く,死亡率を低減することを示した.年齢,PC-ASPECTS,血圧,閉塞部位,閉塞の原因など多くの背景因子で2群間に差があったが,これらの因子を調整した傾向スコアマッチングで抽出した167例ずつで比較しても血栓回収治療群の方が90日目のmRSが良好で,機能予後良好例(mRS≦3)が多く,死亡率が低かった(p<.001).
一方,RCTについては,中国で先行して実施されたBEST研究(発症8時間以内の患者が対象)は登録の遅れとクロスオーバー症例の過剰によって中止されている(文献6).2020年に公表されたBESTのITT解析では血栓回収割り当て群と標準治療割り当て群で,一次アウトカムである発症90日目の機能良好(mRS≦3)の割合に有意差はなかった.
脳底動脈急性閉塞に対する血栓回収治療に関して,最後まで完遂されたRCTは,2022年5月にNEJM誌で公開されたBASICS研究が最初のものである(文献7).BASICS研究は2011年から2019年にオランダを中心とする世界7ヵ国23施設で実施された発症6時間以内の脳底動脈急性閉塞に対する血栓回収治療に関するRCTである.これによれば,一次アウトカムである90日目のmRS≤3の頻度は血栓回収治療群で44.2%,薬物療法群で37.7%と,わずかにEVT群で高かったが有意差はなかった.
本稿のATTENTION研究は,中国の36病院で実施されたRCTであるが,血栓回収群は薬物治療と比較して,一次アウトカムである発症90日目の機能予後良好(mRS≦3)の達成率は有意に高く,90日目の死亡は有意に低かった.しかし,症候性頭蓋内出血と治療手技に伴う合併症は,専ら血栓回収群にのみ認められた.なお,二次アウトカムの90日目のmRS分布,90日目のmRS:0~2,発症24~72時間のNIHSSスコア,90日目のBarthelインデックス,90日目のEQ-5D-5Lスコアなども血栓回収群で良好であったが,率比は調整できなかったので,確定的な結論は引き出せなかった.また,発症24~72時間のMRAあるいはCTAにおける再開通率は血栓回収群91%,薬物治療群38%で,率比は2.58(95%CI:1.89~3.51)であった.
本稿と同時にNEJM誌上(387;15,2022)で公開された中国におけるRCT(BAOCHE研究)は,発症後6~24時間と,本ATTENTION研究より遅いタイミングで治療が開始された患者を対象としている(文献8).血栓回収群は薬物治療群に比較して,一次アウトカムである発症90日目の機能予後良好(mRS≦3)の達成率は有意に高かった.一方,症候性頭蓋内出血や治療手技に伴う合併症は,ほとんど血栓回収群にのみ認められている.
NEJM誌に同時掲載された中国からのこれら2本のRCT(ATTENTION研究,BAOCHE研究)の結果は,治療開始時間,重症度(NIHSS),虚血巣の広さ(PC-ASPECTS)などが異なるものの,共に急性期脳底動脈閉塞に対する血栓回収治療の有効性を示すものとなっている.
この二つのRCTの問題点としては,経静脈的血栓溶解剤の投与の割合が15~30%と先行研究(BASICSでは79%)に比較して低いことで,これが薬物療法群にとって不利に作用している可能性がある.実際,発症後24~72時間の脳底動脈の開通率は血栓回収群で,BAOCHE:92%,ATTENTION:91%,BASICS:85%と大差はないが,薬物療法群では,BAOCHE:19%,ATTENTION:38%に対して,BASICS(79%が経静脈的血栓溶解剤を投与されている)では56%と高い.ATTENTION研究とBAOCHE研究の著者らは彼らの対象患者において経静脈的血栓溶解剤の投与の割合が低い理由の一つに “中国では大部分の患者(家族)が血栓溶解剤を投与前に自ら買わなければならない” ことを挙げている.
急性脳主幹動脈閉塞に対する発症後4.5時間以内のtPA投与が保険適用となっている日本では,少なくとも前方循環急性閉塞の場合,血栓回収術前に過半数の患者が経静脈的血栓溶解剤の投与を受けているので,この中国の2つのRCTの結果を直接日本の医療環境に持ち込むことには注意が必要かも知れない.
ただし,BASICS研究でも,サブ解析では,NIHSS<10の軽症例を除いた239例(NIHSS≧10)に限れば,一次アウトカムの頻度は血栓回収群で有意に高い(リスク比1.45,CI:1.03~2.04)(文献7).
今後,神経学的重症度(NIHSS),梗塞巣の範囲(PC-ASPECTS),閉塞の原因(心原性塞栓あるいはアテローム血栓性)など,適応基準の精緻化が進めば,予後不良の脳底動脈急性閉塞に対して,血管内治療が有用な治療手技となることが期待出来る.一方で,血栓回収の方法(ステントリトリーバーあるいは直接吸引法)(文献9)やステント留置の要否などの,最適な血管内治療手技の検討も必要であろう.

<コメント>
脳底動脈急性閉塞は再開通しなければ予後が極めて不良という医学的常識のため,RCTの実施に対する倫理的問題が提起されてきた.このため,RCTの総数は前方循環より少ない.また,先行する中国におけるBEST研究では前述の医学的常識のためか,登録からの脱落やcross overが多かったため目標症例数に達せず,血栓回収療法の有効性も示されなかった.しかし直近の2つのRCT(ATTENTION,BAOCHE)では血栓回収療法の有効性が示され,注目されている.本ATTENTION研究ではBASICS研究などに比べて経静脈的t-PAの使用率が低いことが議論されているが,BASICS研究では発症6時間以内,本研究では12時間以内が対象であったことから,t-PA投与の適応率が違うのは当然である.一方,薬物治療群の発症24時間後のNIHSS中央値は,BASICS研究では15点であり,本研究の30点と大きな乖離があったことが,今回の研究で血栓回収療法の優位性が示された一因と考えられるが,その理由は不明である.今後,この点が議論の対象となっていくものと思われるが,2つのRCTで血栓回収療法の有効性が示された意義は大きく,今後の治療方針に大きな影響をもたらすことが予想される.
(兵庫医科大学脳神経外科 蔵本要二,吉村紳一)

執筆者: 

有田和徳