脳幹海綿状血管腫46例に対する摘出手術の長期予後:Lawtonグレードが予後推定に有用

公開日:

2022年10月27日  

Long-term outcomes after surgery for brainstem cavernous malformations: analysis of 46 consecutive cases

Author:

Hori T  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Tokyo Women's Medical University, Tokyo, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:36087317]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2022 Sep
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

脳幹海綿状血管腫は脳海綿状血管腫の15~35%を占め(文献1),出血によって重篤な症状を示すが,その摘出は最もチャレンジングな手術である.東京女子医科大学のHoriらは,過去30年間に実施した脳幹海綿状血管腫摘出術の連続46例(全例出血性,男女ほぼ同数,年齢中央値37歳,mRS>2:41%)を後方視的に解析し,特にLawtonの脳幹海綿状血管腫グレーディング(文献2)の長期予後推定における意義を検討した.Lawtonグレードは年齢40歳以下か超えるか,直径2 cm以下か超えるか,脳幹の中心線を越えるか否か,静脈血管腫を伴うか否か,最終出血からの期間の5項目からなり,総計0-VIの7段階である.

【結論】

各Lawtonグレードの頻度は0:7%,I:4%,II:22%,III:24%,IV:17%,V:15%,VI:11%であった.43腫瘍(93%)が全摘出され,全摘例ではその後の出血はなかった.2例の術後合併症例を除き,96%の術後回復は順調でmRSの改善が得られた.
経過観察期間は93%が56ヵ月以上で,最長は365ヵ月.最終追跡段階での機能予後良好(mRS≦2)は91%で(術前59%),39%はmRS 0であった.
多変量解析ではLawtonグレードのみが機能予後良好と相関した(p=.028).ROC解析ではLawtonグレードはAUC 0.93の精度で機能予後良好を予測した.

【評価】

出血を起こした脳幹海綿状血管腫の再出血率は15.9%と高く(文献3),症候性あるいは出血を起こした脳幹海綿状血管腫の5年間出血率は30.8%に達する(文献4).したがって,一旦出血を起こした脳幹海綿状血管腫では摘出術が選択されることが多い.しかし,その局在故に,脳幹海綿状血管腫の摘出には高いリスクが伴う.本稿は,専ら第一著者のHoriが実施した摘出手術症例連続46例を中央値153ヵ月,最長365ヵ月という長期に追跡したデータの解析である.その結果,93%の腫瘍が全摘出され,2例を除いて術後回復は順調で,mRS≦2の患者の割合は手術前の59%から最終追跡時の91%に上昇した.また全摘出例では,その後の再出血はなかった.素晴らしい成績である.稀少で困難な手術を単一術者に委ねて,経験値を上げる戦略が成功したケースと考えて良いであろう.
気になるのは腫瘍へのアプローチであるが,本文中にはSpetzlerらが提唱する腫瘍の中心と腫瘍が脳幹表面/脳室上位に最も接近する点を結んだ線の延長上からアプローチする “Two-point method” (文献5)を常に意識しながらも,腫瘍の存在部位,脳幹表面/脳室上位から腫瘍までの距離,安全なエントリーポイント,さらに術中電気刺激による脳幹機能マッピングも考慮して選択したと記載されている.特に一定のアプローチに固執することなく,個々の症例毎に,柔軟な手術アプローチの選択が行われたものと推測される.
本稿のもう一つの重要な発見は,2015年に発表されたLawtonグレード・システムが,手術後最終追跡段階での機能予後良好(mRS≦2)を高い精度で予測したという事実である.Lawtonグレード・システムについては,ごく最近,機能予後推定における有用性に関する報告が相次いでいる.それらの報告では,ROC解析におけるAUCは0.72と0.74であった(文献6,7)が,本シリーズのAUCは,0.93と極めて高い.単一術者による安定した手術成績がこの高いAUC値に反映されているのかも知れない.
著者らはさらに,Lawtonグレード・システムを構成する年齢,腫瘍径,片側性か両側性か,静脈血管腫の併存,出血後の期間の5項目の中で,腫瘍径2 cm以下と腫瘍が片側性であることが,長期追跡後の神経症状なし(mRS 0)の独立した相関因子であることも示している.今後,他施設症例で検証されるべき発見である.

<著者コメント>
Lawtonグレード・システムが有用なシステムであることが我々の研究でも示された.ただしhigh grade(VI,VII)の手術適応の判定は慎重にすべきかと思われる.
我々のシリーズでは術後追跡が短期の最近の3症例も追跡期間は全例2年を超えたが,再出血,再発は無い.この3例では血腫(病変)の広がりが縦長であったので,posterior subtemporal approachでテントを切開することで,病変の全摘出が可能であった.
脳幹海綿状血管腫のアプローチの選択は症例ごとに熟慮する必要があるが,第4脳室底からのアプローチを除いて,病変の横・後方からのアプローチが合併症を避けるために有用かと思われる.顔面神経麻痺については種々の修復法の選択肢があるが,両側動眼神経麻痺の修復は現在のところ不可能であるので,回避しなければならない.一側の場合ではFig 3の症例でも職場復帰後,結婚もされている(左動眼神経麻痺は殆ど不変であった).(森山記念病院,東京女子医科大学 堀智勝)

執筆者: 

有田和徳