頭蓋内動脈瘤に対するフローダイバージョン:カナダにおける実用的ランダム化試験(FIAT)

公開日:

2022年11月21日  

最終更新日:

2022年11月22日

Flow Diversion in the Treatment of Intracranial Aneurysms: A Pragmatic Randomized Care Trial

Author:

Raymond J  et al.

Affiliation:

From the Department of Radiology, Centre Hospitalier de l'Université de Montréal, Quebec, Canada

⇒ PubMedで読む[PMID:35926886]

ジャーナル名:AJNR Am J Neuroradiol.
発行年月:2022 Aug
巻数:43(9)
開始ページ:1244

【背景】

フローダイバージョン(FD)は当初,内頚動脈の大型動脈瘤に対して2011年にFDAで認可されたが,最近は比較的小型の動脈瘤や後方循環の動脈瘤に対しても応用が広がっている.しかし,FDと他の治療法とを比較したRCTは少ない(文献1,2).本FIAT研究は,2011年からの10年間にカナダ国の3センターで実施された実用的RCTである.対象は参加施設でFDが有効と考えられた脳動脈瘤の323症例である.このうち45例はFD以外では治療困難と判断されたためFDが実施された(FDレジストリー群).残りの278例はFDと標準治療(コイル,母動脈閉塞,クリップ,経過観察)に均等にランダム割り付けされた.

【結論】

全体の83%が未破裂,52%が大型(≧10 mm),78%が前方循環系,約40%が眼動脈分岐部周囲であった.
標準治療群で選択された治療はコイル72%,母動脈閉塞16%,クリップ4%,経過観察8%であった.
治療後3ヵ月目以内の安全性アウトカム複合(死亡,機能的非自立:mRS>2)は,FD群11.5%,標準治療群8.6%に生じ,相対リスク1.33(p=.439)であった.治療後平均約12ヵ月の効果不良アウトカム複合(死亡,mRS>2,動脈瘤破裂,増大,再治療,初期治療の失敗,12ヵ月目での動脈瘤残存)はFD群30.9%,標準治療群45.6%で,相対リスク0.68(p=.014)であった.

【評価】

FDに関するRCTについては,2018年に2つの報告が出版されている.PARAT研究(中国,144例)はFD(中国製Tubridgeを使用)とステント補助下コイリングの比較であった(文献1).FDの方が,動脈瘤の閉塞率は有意に高かったが,合併症率が高かった.もう一つは,バイパス+母動脈閉塞との比較研究(ロシア,111例)であり,FD(欧米の複数のデバイスを使用)は安全な治療であることを示したが,動脈瘤完全閉塞率は有意に低かった(文献2).
本FIAT(Flow Diversion in the Treatment of Intracranial Aneurysm Trial)試験は,対照治療をひとつに固定せず,コイル(ステント併用有りあるいは無し),母動脈閉塞,クリップ,経過観察の中から治験参加施設が選択できるようになっており,それが実用的(pragmatic)ランダム化試験と称される理由である.
その結果,死亡か機能的非自立(dependent,mRS>2)の複合からなる主要安全性アウトカムは,FD群11.5%,標準治療群8.6%と差はなかった.一方,死亡,mRS>2,動脈瘤破裂,再治療,初期治療の失敗,12ヵ月目の血管撮影上の動脈瘤残存の複合からなる主要効果不良アウトカムはFD群30.9%,標準治療群45.6%で,FD群で有意に少なかった(相対リスク0.68,CI:0.50~0.92,p=.014).12ヵ月目の血管撮影上の完全閉塞,頚部残存,動脈瘤残存の頻度はFD群で61.2%,7.9%,13.7%,標準治療群で43.2%,10.1%,24.5%と,動脈瘤の閉塞に関してはFD群の結果が良好であった.
結果を要約すれば,安全性に有意差はなく,効果に関してはFDが有意に良好(効果不良が少ない)という結果であった.しかし,動脈瘤の背景別に比較すると,FDの優位性が薄れるケースもある.例えば,後方循環では効果不良の相対リスク0.79(CI:0.47~1.33),10 mm未満では相対リスク0.91(CI:0.52~1.57)と有意差はなくなる.さらに,FDと言えども,母動脈閉塞(±バイパス)に比較すれば,効果不良の相対リスクは1.28(CI:0.66~2.47)となっている.このように,動脈瘤の部位,大きさ,対照症例における治療選択によってFDの優位性は異なってくる.このことは,個々の症例毎に,FDの適応をよく見極める必要性があることを示唆している.
また,本研究の対象のうち未破裂かつ無症状例が5割を占めており,これらに対する治療の目的が未来におけるリスク回避であることを考慮すれば,用いた効果アウトカムの平均経過観察期間は12ヵ月とまだ短く,少なくとも数年の経過で,FDと標準治療群を比較すべきと思われる.さらなる長期追跡の結果に期待したい.また,本研究ではFD治療群のフローダイバーティング・デバイスの選択は各施設・術者に委ねられていたようであるが,過去10年間でデバイスも進化している(文献3,4).また術者達の経験値も上がっているはずである.今後,充分な経験を積んだ術者が新しいデバイスを用いて行うFDと標準治療のRCTの実施も課題であろう.
実はこのFIAT試験は,2014年に,効果・安全性委員会(DSMC)の審議に基づいて,一旦登録が中止されている(文献5).その理由は,フローダイバージョンの安全性に対する危惧のためで,FD治療を受けた75例中8例が死亡し,4例がdependent(mRS>2)となった(合計16%)ことによる.しかし,これは主としてFDレジストリー群に発生した死亡と治療関連障害症例の多さに影響されたものであった.ランダム化された2群間では差がなかったため,その後DSMCが治験再開を勧告し,継続されたものである.
興味深いのは,当初のFDAの勧告ではメドトロニック社のPipeline(TM)を用いたFD治療の対象は径10 mm以上の大型あるいは巨大動脈瘤で内頚動脈のものとされているにもかかわらず,本研究の対象は約半数が10 mm未満であり,中には1-2 mmの微小なものも含まれていることである.また,後方循環も約22%であり,臨床現場では,FDデバイスのオフラベル使用/適応拡大が進んでいる事を反映している.すでに,Pipeline(TM)に関しては,製造・販売のメドトロニック社がそのウェブサイトで,米国FDAから適応を拡大する通知を受けたことを公表している(文献6,2019年2月9日).これによれば,新しい適応は内頚動脈錐体部~内頚動脈終末部間の内頚動脈瘤で,動脈瘤の大きさによる制限は設定されていない.

<コメント>
本FIAT研究は,研究実施担当者らがFDによる治療が有効と考えた脳動脈瘤を対象とし,coiling,母動脈閉塞,clipping,経過観察からなる標準治療群とFD群へ均等にランダム割り付けしている.しかし本研究では,FD以外の治療が困難な例はランダム化から除外され,レジストリとして登録されている事に注意が必要である.また,研究がカナダの3施設で10年間に渡って行われていること,研究期間中にFDの治療適応に変更があったこと,長期的な破裂予防効果は不明であること(follow-up期間12ヵ月),8.6%の例で割り付け治療法からのcrossoverがあったこと,開頭クリッピングは4.3%しか行われていないこと,などの問題点を有している.さらに,治療有効性を示すprimary outcomeを構成するmRS,治療合併症,動脈瘤閉塞率,再治療などの個々のsecondary outcomeにおいては,FD群と標準治療群で有意差がないことにも留意する必要がある.しかし本研究の,FDとFD以外の血管内治療及び開頭クリッピングとのランダム化比較を行った点は評価されるべきポイントである.その結果,著者らは未破裂大型内頚動脈瘤に関しては,FD治療が標準治療に比し,治療有効性の点で優れていると結論しており,我々が普段経験するリアルワールドの感覚に一致している.本研究の結果と低侵襲性を求める患者ニーズを勘案すると,今後もFD治療は未破裂脳動脈瘤治療において重要な役割を果たすであろう.(兵庫医科大学脳神経外科 松川東俊,吉村紳一)

執筆者: 

有田和徳