大きな小脳橋角部髄膜腫を無理して全摘出しなくても良い:エクス-マルセイユ大学の50例

公開日:

2022年11月21日  

最終更新日:

2022年11月22日

Surgical management of large cerebellopontine angle meningiomas: long-term results of a less aggressive resection strategy

Author:

Troude L  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, North University Hospital, APHM–Aix-Marseille Université (AMU), Marseille, France

⇒ PubMedで読む[PMID:36208440]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2022 Oct
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

大きな小脳橋角部髄膜腫は脳神経,小脳・脳幹,動・静脈の重要構造に囲まれており,その安全な摘出は困難なことが多い.こうした小脳橋角部髄膜腫に対して,エクス-マルセイユ大学脳外科は,全摘出にこだわらず,非全摘出例に対する比較的早期のガンマナイフ治療や定期的な経過観察を組み合わせた治療戦略を採用してきた.本稿は,2003年以降に手術した連続50例(女性92%,平均56歳,平均径35 mm)の治療と追跡結果の解析である.症状は,蝸牛・前庭神経症状82%,一側聴力喪失64%,頭痛34%,小脳失調18%,顔面知覚障害22%,顔面筋力低下12%,顔面けいれん10%などであった.92%で後頭下開頭が採用された.

【結論】

硬膜付着部は内耳道後方42%,上方26%,下方18%,前方14%であった.半数で内耳道内への腫瘍進入があったが,内耳道は開放しなかった.1年以上追跡の48例中,13例が肉眼的全摘,15例が亜全摘後ガンマナイフ,20例が亜全摘後経過観察を受けた.術前顔面神経機能正常の45例では,最終追跡時(平均73ヵ月後),93%はHBグレードI~IIで,7%のみがグレードIIIであった.術前実用聴力であった29例では,86%で聴力が温存された.術後残存腫瘍体積平均値はガンマナイフ群1.20 cm³,経過観察群0.73 cm³であった.最終追跡時の腫瘍コントロール率はガンマナイフ群87%,経過観察群55%であった.

【評価】

小脳橋角部髄膜腫は重要な神経・血管構造に囲まれているため,その全摘出は容易ではない.従来の積極的な摘出では,手術後の恒久的な顔面神経麻痺は17~30%に生じると報告されている(文献1,2,3).また,聴力の悪化は33%に達するとの報告がある(文献4).
著者らは腫瘍と脳幹あるいは神経・血管構造への癒着が強い場合は摘出を中止しており,また内耳道や頚静脈孔の開放は行っていない.そのために,肉眼的全摘出率は27%に留まっているが,顔面神経機能の温存率は高く,全48症例での最終追跡時のHBグレードはI~IIが91%,IIIが9%である.また手術前16%にHBグレードIV以上の顔面神経麻痺が認められたが,手術後は全例III以下に改善している.また聴力温存率も86%と高く,手術前に実用聴力がなかった21例中4例(19%)が実用聴力を取り戻している.
このような機能を重視した手術であったため,亜全摘に終わった割合は73%と高い.この亜全摘に終わった症例のうち,残存腫瘍体積が大きい例やWHOグレード2には比較的早期(手術後平均10ヵ月以内)のガンマイフ治療(腫瘍辺縁線量12 Gy)が,残存腫瘍体積が小さい例では経過観察が行われている.再発は,肉眼的全摘群13例中1例(7.7%),亜全摘後早期のガンマナイフ治療群15例中2例(13.3%),亜全摘後経過観察群20例中9例(45%)で認められた.再発腫瘍には全例ガンマナイフ治療が行われ,その後の平均35ヵ月間,再増大なく腫瘍コントロールが得られている.
著者らが最も強調しているのは,本シリーズでは再発に対する再手術(救済手術)を行わざるを得なかった症例はなかった事である.小脳橋角部髄膜腫の再発例の手術は癒着,線維化,解剖学的構造の変形などのため,大きなリスクを伴うので,著者らの治療戦略でそれを避けることができたことの意義は大きい.
注意しなければならないのは,早期ガンマナイフ治療群でも残存腫瘍体積は0.50 cm³(中央値)であり,全症例の術前11.29 cm³(中央値)に比べればかなり小さくなっており,決して部分摘出手術ではなく,著者らの言う “subtotal resection” にふさわしい摘出率になっていると推定出来ることである.
本稿の問題点としては,術後治療方針の割り当てがランダム化されていないという批判は当然であるが,加えて画像での追跡期間も平均73ヵ月(12~170ヵ月)と,元来が良性の腫瘍であることを考慮すれば決して充分な長さではない.今後,より多数例を対象とした,より長期の観察結果に期待したい.

<コメント>
本論文の内容は,小脳橋角部髄膜腫の臨床的特徴を理解する上で,非常に役に立つものである.また治療結果も我々の日ごろの治療経験におおむね一致するものである.しかし本論文を読む場合には,論文タイトルの解釈に注意が必要である.つまりタイトルでは “less aggressive resection” となっているため,部分摘出とガンマナイフ照射によって長期に良好な成績が得られるものと早合点しそうであるが,実際に記載されている内容はそれとはかなり異なっている.すなわち,ガンマナイフを術後にupfrontで照射した症例においても残存腫瘍体積は平均1.20 cm³である.1.2 cm³の腫瘍というのは,MRI画像上ではほんのわずかな大きさである.つまり著者らも全摘出ではないものの,神経機能を温存した上で最大限切除を行っているのである.またそこまで小さくした腫瘍だからこそ,ガンマナイフによる腫瘍制御率は7年で89%と高いことに注意が必要である.本論文の結果は,これまでの論文で10年制御率は約80%,15年制御率は65%程度となっていることともおおむね一致している.したがって本論文は,大部分の腫瘍を切除し残存腫瘍に術後早期にガンマナイフを照射した場合,7年程度あればある程度制御できると理解するのが正しい読み方であると思われる.逆に初めから部分摘出を目指した腫瘍切除であれば,残存腫瘍の大きさは1.2 cm³よりはるかに大きくなるはずであることに注意されたい.(大阪公立大学脳神経外科 後藤剛夫)

執筆者: 

有田和徳