公開日:
2023年3月27日最終更新日:
2023年3月28日Trial of Globus Pallidus Focused Ultrasound Ablation in Parkinson's Disease
Author:
Krishna V et al.Affiliation:
University of North Carolina, Chapel Hill, NC, USAジャーナル名: | N Engl J Med. |
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発行年月: | 2023 Feb |
巻数: | 388(8) |
開始ページ: | 683 |
【背景】
集束超音波による視床Vim核破壊術は本態性振戦に対する治療として普及しつつある(文献1,2).
本稿は北米,欧州,アジアの16施設で実施されたパーキンソン病に対する淡蒼球の収束超音波破壊術のシャム手術対照RCTである.対象はジスキネジアか日内変動とオフ・メディケーション時の運動障害を示すパーキンソン病患者94例で,実手術とシャム手術が3:1の割合で無作為に割り当てられた.破壊手術は症状の強い側の反対側淡蒼球内節に対して行われた.一次アウトカムはオフ・メディケーション時のMDS-UPDRS運動スコア(III)か,オン・メディケーション時のUDysRSの3ポイント以上の低下(症状改善)とした.
【結論】
実手術65例とシャム手術22例が一次アウトカム評価対象になった.実手術群のうち45例(69%),シャム群のうち7例(32%)が術後3ヵ月目の一次アウトカムに到達した(2群間差37%;95%CI:15~60;p=.003).一次アウトカムに到達した45例中の19例がMDS-UPDRS III基準,8例がUDysRS基準,18例が両基準を満たした.実手術群で術後3ヵ月目の一次アウトカムに到達し,かつ12ヵ月の評価が可能であった39例中77%で一次アウトカムの効果が続いていた.淡蒼球破壊に関連した有害事象としては構音障害,歩行障害,味覚消失,視機能障害,顔面筋力低下が認められた.
【評価】
本態性振戦に対する集束超音波による視床Vim核破壊術は徐々に普及しつつある(文献1,2).一方,パーキンソン病に対する外科治療の現段階における主流は脳深部刺激(DBS)であり(文献3,4),続いてターゲットに刺入したプローブを通した高周波凝固術であるが,これらの手技では感染や出血の可能性は無視出来ない(文献5).
2020年12月にNEJM誌上で報告された,非対称性運動症状を示すパーキンソン病の患者に対する集束超音波による視床下核破壊術に関するRCTでは,実手術群では,シャム手術群に比較して有意の運動症状の改善がもたらされることが明らかになった(文献6).この研究では,MDS-UPDRS IIIスコアで臨床的に意義のある30%以上の改善は88.9%で認められた.また,2020年11月には,非対称性の運動症状を有するパーキンソン病患者に対する集束超音波による一側淡蒼球内節破壊術に関するオープンラベル試験の結果が発表されている(文献7).これによれば,UDysRS,MDS-UPDRS IIIともに治療前に比べて手術後3ヵ月目,12ヵ月目は有意に改善していた(いずれもp<.0001).
本稿で取り上げたのは,パーキンソン病患者に対する一側淡蒼球内節の集束超音波破壊術に関する世界で初めてのRCTである.その結果,一次アウトカムである術後3ヵ月目のMDS-UPDRS IIIかUDysRSの3ポイント以上の低下は,実手術群で69%でシャム群での32%に比較して有意に高い改善が得られた(p=.003).すなわち,一側淡蒼球内節の集束超音波破壊術がパーキンソン病患者におけ運動機能やレボドーパ誘発性ジスキネジアの有意の改善をもたらすことが示された.なお,本RCTでシャム手術に割り当てられた22例中20例でも,3ヵ月の観察期間終了後に実手術が選択されている.
気になるのは合併症であるが,淡蒼球破壊に関連した有害事象としては,構音障害,歩行障害,味覚消失,視機能障害,顔面筋力低下が認められたが,すべてFDAの定義で軽症か中等症であり,その多くは12ヵ月目までに消失している.この他,治療関連の重篤な有害事象としては,全淡蒼球破壊術症例68例中1例で致死的ではない肺塞栓症が,手術後1週間以内に発生している.
パーキンソン病に対する視床下核や淡蒼球内節に対する集束超音波による破壊術は,頭蓋内手術操作を必要としないため感染や出血のリスクはなく,1回の手技で治療が終了するという大きな利点を有している.しかし,症状進行に対する次の治療方法はなく,破壊に伴う重篤な有害事象が起これば,修復が不可能である.一方,脳深部刺激(DBS)では,電極設置後年余を経ても,刺激条件の変更によって,刺激に伴う有害事象を低減させたり,刺激効果を高めることも可能である.
今後,パーキンソン病に対する視床下核や淡蒼球内節に対する集束超音波による破壊術に関して,観察期間数年以上の長期効果が明らかになることに期待したい.さらに,視床下核と淡蒼球内節,どちらをターゲットとすべきなのか.また,薬物治療でのコントロールが困難あるいは薬剤性ジスキネジアが強いパーキンソン病に対する次の治療手段として,脳深部電気刺激,高周波電気凝固,集束超音波による破壊の3つの手術療法のうちどれを選択すべきなのか,選択基準が明らかになることに期待したい.
<コメント1>
本態性振戦あるいは振戦優位型パーキンソン病に対する視床Vim核の破壊術に関しては,集束超音波治療の普及により,むしろ従来のラジオ波凝固術も再度見直され,本邦における凝固術は近年増加傾向にある.集束超音波治療は着想から実用化までには実に長い年月を要しており,温故創新の機能外科の歴史を体現しているとも言える.一方でパーキンソン病に対する視床下核あるいは淡蒼球をターゲットとする脳深部刺激術の有効性は確立されている.今後,片側の淡蒼球あるいは視床下核をターゲットとした集束超音波破壊術の脳深部刺激術に対する優位性,あるいは非劣性を示せるか,ある程度統一された基準のもとにエビデンスの蓄積が望まれる.(鹿児島大学脳神経外科 花田朋子)
<コメント2>
パーキンソン病(PD)に対する外科治療の歴史は長く,既に1950年代から視床や淡蒼球の破壊術が行われていた.その後レボドパの登場によりPD治療の主役は薬物療法になった.一方1990年代に脳破壊を伴わず,調節性を持つ脳深部刺激療法(DBS)が開発され,日内変動やジスキネジアといったレボドパによる運動合併症に対して両側視床下核(STN)または淡蒼球(GPi)をターゲットとしたDBSが行われるようになった.実際には運動症状改善効果や減薬効果が優れているSTN-DBSが主流として広く行われている.
本論文はPDに対する集束超音波(FUS)による一側GPi破壊術の運動症状改善効果および合併症に関するRCTである.その結果,GPi-FUSではsham手術群に比べて術後3か月の時点でオフ時の運動スコア(UPDRS Ⅲ)またはジスキネジアスコア(UDysRS)が改善した例が有意に多く,術後早期にみられた有害事象も12か月までにはほぼ改善したことを報告している.
一方,2020年に発表されたFUSによる一側STN破壊術についてのRCT(文献6)の結果と比較すると,STN-FUSでは運動スコアの改善効果はGPi-FUSより優っているが(運動スコアの改善は STN 8.1、GPi 4.8 ポイント),ジスキネジアなどの有害事象が残存する例が多い.それと比較するとGPi-FUSでは特にジスキネジアに対する改善効果が高いと思われる.
FUSは観血的手技を伴わないことから患者に受け入れられやすい治療であると思われるが,過去に行われてきた破壊的な手法の一つであることも事実であり,その精度が担保されなければ恒久的な有害事象を残す可能性がある.またFUSでも両側同時破壊手術は構音障害などの有害事象の懸念があり,現状では一側手術とせざるを得ない.一方,進行期PD患者のほとんどは両側性の運動症状を有していることから,通常は両側手術を必要とする.さらにPDは進行性の疾患であり,刺激の調整で症状の進行に対応できるということがDBSの最大の利点であることからも,現状では可能ならばやはり両側DBSを選択すべきであろう.PDに対するFUSは,観血的な外科手術(DBS)が適応とならない患者に対しては考慮されるが,本来DBSの適応となる患者に対して安易にFUSを適用すべきではない.また本論文ではフォローアップ期間が最大12か月と短く,今後は将来的なPDの進行をも加味した長期治療成績についても明らかにする必要がある. (順天堂大学脳神経外科 梅村淳)
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Elias WJ, et al. A randomized trial of focused ultrasound thalamotomy for essential tremor. N Engl J Med. 375(8):730-739, 2016
- 2) Chang JW, et al. A prospective trial of magnetic resonance-guided focused ultrasound thalamotomy for essential tremor: Results at the 2-year follow-up. Ann Neurol. 83(1):107-114, 2018
- 3) Deuschl G, et al. A randomized trial of deep-brain stimulation for Parkinson's disease. N Engl J Med 355: 896-908, 2006
- 4) Schuepbach WMM, et al. Neurostimulation for Parkinson's disease with early motor complications. N Engl J Med 368: 610-22, 2013
- 5) Patel DM, et al. Adverse events associated with deep brain stimulation for movement disorders: analysis of 510 consecutive cases. Neurosurgery. 11(2) (suppl 2):190–199, 2015
- 6) Martínez-Fernández R, et al. Randomized Trial of Focused Ultrasound Subthalamotomy for Parkinson's Disease. N Engl J Med. 383(26):2501-2513, 2020
- 7) Eisenberg HM, et al. MR-guided focused ultrasound pallidotomy for Parkinson's disease: safety and feasibility. J Neurosurg. 2020 Nov 27:1-7