治療された未破裂動脈瘤のサイズの変遷:1987-2021年の35,150例

公開日:

2023年5月24日  

最終更新日:

2023年5月25日

Trends in the size of treated unruptured intracranial aneurysms over 35 years

Author:

Khorasanizadeh M  et al.

Affiliation:

Neurosurgical Service, Beth Israel Deaconess Medical Center, Harvard Medical School, Boston, MA, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:37029676]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2023 Apr
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

小型の未破裂動脈瘤の破裂リスクは低いが(文献1,2),破裂した動脈瘤のサイズは小さなものが多い(文献3,4,5).このパラドックスは未破裂動脈瘤治療適応の決定をより複雑化している(文献6).一方,未破裂動脈瘤治療における効果と安全性は徐々に向上している.それでは,治療の対象となった未破裂動脈瘤のサイズはどのように変化しているのか.ベス・イスラエル・ディーコネス医療センター脳外科などのチームは,過去に報告された240研究を基に,1987-2021年に治療された未破裂脳動脈瘤35,150例(平均55.5歳,女性70.7%)のサイズの経年的変化を求めた.全症例の動脈瘤径の加重平均は7.4 mm.

【結論】

治療を受けた未破裂動脈瘤は徐々に小さくなっており(r =−0.186,p <.001),5年ごとに0.71 mmずつ縮小していた.1995年以前に治療された未破裂動脈瘤径の加重平均は13.6 mmで,2015年以降に治療されたものは加重平均6.7 mmであった.
動脈瘤径の縮小傾向は開頭手術群でも血管内手術群でも同様に有意であった(ともにp <.001).
地域別では,未破裂動脈瘤の径の加重平均は米国8.4 mm,欧州7.9 mm,東アジア圏6.3 mmで,3群間で有意差があった(p <.001).米国と欧州では有意の経年的な縮小が認められ(ともにp <.001),東アジア圏では縮小傾向はなかった.

【評価】

本稿は,1987年以降に治療を受けた未破裂動脈瘤径の変化を,240本の報告を基に解析したものである.この結果,治療を受けた未破裂動脈瘤径は徐々にかつ有意に縮小していた.これは血管内治療群でも開頭手術群でも同様であり,先進国でも発展途上国でも同様であった.この理由として,著者らは画像診断技術の向上やMRI・CTの普及によって小型の動脈瘤の発見頻度が増えたこと(文献7),血管内治療の普及によって動脈瘤治療の安全性が高まった事を挙げている(文献8).
さらに近年は,破裂動脈瘤の3/4を7 mm以下の小型動脈瘤が占め,約半数は5 mm以下であることが報告されており(文献3,4,5),また破裂動脈瘤の中での5 mm以下の動脈瘤の比率が経年的に増加しているとの報告もある(文献5,9).こうした事例を現場第一線で見たり,これらの報告を読んだ脳外科医が,小型の未破裂動脈瘤の破裂リスクは低いという従来の常識との葛藤の中から,小型動脈瘤を積極的に治療する方向への一歩を踏み出しているのかも知れない.
興味深いのは,東アジア圏では米国や欧州に比較して,治療の対象となった未破裂動脈瘤の径は小型で,経年的な縮小は認められなかった事である.すなわち,東アジア圏では他の地域に比較して,以前から比較的小さな未破裂動脈瘤が治療の対象であった事を意味している.この違いの理由は不明であるが,東アジア圏では動脈瘤性くも膜下出血の頻度が高いこと,小型未破裂脳動脈瘤の発見数が多いこと, 未破裂動脈瘤が早期に増大しやすいことが関連しているかも知れない(文献10).おそらくは遺伝的な違いも背景にあるのであろうと著者らは述べている.
著者らは本研究の結果を基に,小型の未破裂動脈瘤に対する最近の標準的な治療の流れとは異なり,どちらかと言えばアンダートリートメントを推奨している既存の治療決定サポートモデル(UIATS,PHASES,ELAPSなど)の再検討が必要であろうと結論している.
本稿を含めて,この問題をめぐる議論で気になるのは,未破裂の小型動脈瘤と破裂した小型動脈瘤を同じカテゴリーで論じることが出来るか否かである.すなわち,破裂した動脈瘤は,偶然に発見された未破裂動脈瘤とは異なり,動脈瘤が発生して早期に破れるのではないかという点である.また,動脈瘤の破裂後は画像上縮小して見える可能性も否定は出来ない.今後,こうした点も含めた検討が必要であろう.
おそらくは,大規模な住民ベースでのスクリーニングと長期フォロー,そして未破裂の小型動脈瘤に対する治療のランダム化割り当て試験がその答えを導き出すものと思われる.

<コメント>
小型未破裂脳動脈瘤の治療に対する,脳神経外科医の立場の考えと脳神経内科医の考え方は若干異なる.本論文は脳神経外科医の立場からの論文と思われる.小型の未破裂脳動脈瘤の破裂率が低いにもかかわらず,破裂脳動脈瘤に占める小型動脈瘤の割合が多いのは,小型の未破裂脳動脈瘤の母集団が圧倒的に多いためであり,発生して早期に破裂するスクリーニング不可能なSUEVe type1(文献11)のような動脈瘤はそれほど多くないと考えられる(文献12).また,小型の未破裂脳動脈瘤の手術数を増やしてもNTT(number to treat)は,200-500程度であり,住民全体のくも膜下出血の頻度を低下させることは困難と考えられる(文献12).どちらかと言えばアンダートリートメントを推奨している既存の治療決定サポートモデル(UIATS,PHASES,ELAPSなど)に関しては、小型未破裂脳動脈瘤の中でも破裂のリスクのある動脈瘤をいかにスクリーニングで見いだすか、またその治療適応についてもう少し検討の余地があるかもしれない.しかし,今後我々が行うべきことは,圧倒的に多い小型未破裂脳動脈瘤の破裂因子を効率的に低下させる努力であり,これが住民全体でのくも膜下出血の頻度を低下させる最も効果的な手法と思われる.
本論文では,治療された未破裂脳動脈瘤の大きさが経年的に有意に低下していることを明らかにしている。理由としては著者らの言う通り、画像診断技術の向上やMRI・CTの普及によって小型の動脈瘤の発見頻度が増えたこと,血管内治療の普及によって動脈瘤治療の安全性が高まった事に同意できる.実際に画像で発見された未破裂脳動脈瘤の大きさの経年変化は日本の脳ドックのデータを解析すれば可能と思われ,現在脳ドック学会で研究中で,2年以内に発表予定である.
島根県における35年間の破裂脳動脈瘤の検討でも,やはり小型化が確認されており(文献13),動脈瘤増大因子の影響が減少していることが背景にあるのかもしれない.
本論文では,東アジアでは,手術された未破裂脳動脈瘤の経年的な小型化が有意でなかったが,これは日本には元々MRIが多く,小型未破裂脳動脈瘤の発見数が以前から多かったことが一因かもしれない.(島根県立中央病院脳神経外科 井川房夫)

執筆者: 

有田和徳

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