再発膠芽腫に対する再照射は有用:NRG Oncology/RTOG1205試験

公開日:

2023年5月24日  

最終更新日:

2023年5月25日

NRG Oncology/RTOG1205: A Randomized Phase II Trial of Concurrent Bevacizumab and Reirradiation Versus Bevacizumab Alone as Treatment for Recurrent Glioblastoma

Author:

Tsien CI  et al.

Affiliation:

Johns Hopkins School of Medicine, Baltimore, MD, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:36260832]

ジャーナル名:J Clin Oncol.
発行年月:2023 Feb
巻数:41(6)
開始ページ:1285

【背景】

再発膠芽腫における再照射の役割に関する評価は一定していない.本稿は米国17施設で実施された,再照射に関する世界最初のRCTの結果である.対象は組織学的に診断された膠芽腫(WHOグレード4)で,2012-2016年の間に再発が診断された182例.年齢,KPS,再手術の有無を層別化した置換ブロック法で,ベバシズマブ単独(BEV)とベバシズマブ+局所再照射(35 Gy/10回)(BEV+RT)に,一対一でランダムに割り当てられた.全症例のMGMTメチル化率は17.6%で,2群間で差はなかった.ベバシズマブ静注は,10 mg/kgを2週間に1回,腫瘍進行と判断されるまで継続した.

【結論】

全生存(OS)を一次エンドポイントとした.OS中央値は,BEV+RT群で10.1ヵ月,BEV群で9.7ヵ月であり,差はなかった(ハザード比0.98).一方,無増悪生存期間(PFS中央値)は,BEV+RT群7.1ヵ月,BEV群3.8ヵ月(ハザード比0.73,p =.05),6ヵ月PFSはBEV群29.1%,BEV+RT群54.3%(p =.001)と,BEV+RT群で有意に改善していた.再照射の忍容性は良好であり,グレード3以上の治療関連急性有害事象は5%であった.
本研究では,一次エンドポイントであるOSの延長は認められなかったものの,再照射の忍容性は良く,PFSに有意な改善をもたらした.

【評価】

現在でも膠芽腫患者の予後は,手術,放射線,化学療法を含む集学的治療によっても不良で,中央値8ヵ月で初期治療後の再発が認められ,OS中央値は12-16ヵ月に留まっている(文献1).再発膠芽腫に対する再照射の安全性と意義に関してはいくつかの後方視研究で示されているが(文献2,3),RCTで証明したものはなかった.一方,抗VEGF抗体のベバシズマブ(アバスチン)は,初発膠芽腫や進行性膠芽腫に対して,OSは延長しないが,PFSを延長する効果を示しており(文献4,5,6),既に本邦でも,再発・進行性の膠芽腫に対して使用されている.
本研究はベバシズマブ単独治療を対照とした,局所放射線再照射に関する世界初のRCTである.照射の方法としては3D-原体照射,IMRT,陽子線のいずれかが用いられ,造影腫瘍辺縁から最低3 mm拡張して計画標的体積(PTV)が設定された.
その結果は,再照射はOSの延長はもたらさなかったが,PFSを約3ヵ月延長したというものであった.
有害事象に関しては,CTCAEグレード5はベバシズマブ単独治療群で4例(5.3%),ベバシズマブ+再照射群で8例(9.6%)で認められたが,2例(1例は照射野内の出血)を除いては,割り当て治療と関係はないものと想定された.
この結果を見ると,再照射は再発膠芽腫における合理的な選択肢と考えられるが,今後,認知機能,ADL,QOLに与える影響も検討されるべきである.
なお,本稿では,対象症例におけるIDH変異の頻度に関しては記載されていない.

<コメント>
再発膠芽腫に対する再照射+アバスチンは,日本でも保険適応内の治療として成立するため,実臨床で用いる施設は少なくなく,東京女子医大からは後方視研究でOS延長も報告されている.今回のランダム化試験ではPFS延長のみでOS延長を認めないというAVAglioと似た結果となっている.しかしながらコントロールのアバスチン単独治療群90例中でも再々発後の放射線照射が12例で行われており,クロスオーバーを容認したためにOSでの有効性が埋没した可能性が否定できない.また今回は最大6 cmまでの腫瘍がエントリーされており,照射も30 Gy/10 Frとやや安全性に考慮した照射となっているため,放射線の治療効果が最大限に発揮されるデザインとはなっていない可能性がある.日本の実臨床では25-35 Gy/5 Fr程度の寡分割での照射が多い.対象を3 cm程度までのより小さい病変に留めて,寡分割での照射を行うデザインとすれば,違った結果が得られた可能性がある.このような治療の方が,より高い臨床効果と入院期間の短縮が期待でき,患者へのメリットも高まると考えられる.いずれにしても,有害事象がなく再発までの期間は延長するため,本研究によってアバスチン併用の放射線再照射は症例を適切に選択すれば患者へのメリットが高いことが証明された格好であり,実臨床での有用性に関してはむしろポジティブな結果を示した試験であるとも評価できる.(大分大学脳神経外科 秦 暢宏)

<コメント>
本studyでは,再照射の方法として,3D-原体照射,IMRT,陽子線が用いられている.再照射+アバスチン群は,アバスチン単独群と比較して,PFSの延長効果は認めたが,OSの有意な延長は認められなかった.東京女子医科大学では,後方視研究であるが,再発悪性神経膠腫に対するサイバーナイフ照射+アバスチン併用の有用性について過去に報告している(文献7).我々の報告では,PFSはサイバーナイフ照射+アバスチン併用群とアバスチン単独群とを比較して有意差を認めなかったが(5.6ヵ月 vs. 4.8ヵ月),OSでは有意差を認めた(10.4ヵ月 vs. 7.6ヵ月,p =0.02).治療関連有害事象としては,サイバーナイフ照射群で脳浮腫を2例に認めたのみで,いずれもアバスチンの投与により速やかに改善された.我々の研究は後方視であり,本studyと単純に比較することはできないが,照射線量のmedian doseは42 Gy(30-42 Gy/3-7 Fr)と本studyにおける30 Gy/10 Frと比較し高線量の照射を行っている.高線量であっても有害事象は許容される範囲内であった.これらの結果から,再照射の線量を上げることによりOSの延長効果が認められる可能性も考えられる.いずれにしても,今後,アバスチン併用による再照射または定位的照射(stereotactic radiosurgeryではなく,stereotactic radiotherapy)は,特に切除困難な再発悪性神経膠腫に対する治療として主流となることが示唆される結果と考えられる.(東京女子医科大学脳神経外科 齋藤太一)

執筆者: 

有田和徳