脳出血患者を間違って遠方の血栓回収センターに搬送したらどうなるのか:RACECAT2次解析

公開日:

2023年9月12日  

最終更新日:

2023年9月13日

Effect of Bypassing the Closest Stroke Center in Patients with Intracerebral Hemorrhage: A Secondary Analysis of the RACECAT Randomized Clinical Trial

Author:

Ramos-Pachón A  et al.

Affiliation:

Stroke Unit, Hospital Universitari Josep Trueta, Avinguda, Girona, Spain

⇒ PubMedで読む[PMID:37603325]

ジャーナル名:JAMA Neurol.
発行年月:2023 Aug
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

本稿の主体であるRACECAT試験は,救急隊が現場で脳主幹動脈閉塞と判断した脳卒中患者を最寄りの一次脳卒中センターに送るのと,少し遠くても血栓回収が出来るセンターに送るのとではどちらが良いかというRCTであった(文献1).しかし当然のことながら,救急隊員が急性脳主幹動脈閉塞と判断した症例の中には,脳出血のケースも含まれているはずである.本稿はRACECAT試験登録総数1,401例のうち最終診断が脳内出血であった302例を対象とした事前指定2次解析である.165例が最寄りの一次脳卒中センターへ,137例が血栓回収センターへの搬送に割り当てられた.
一次アウトカムは発症90日目のmRSとした.

【結論】

血栓回収センター搬送群では最寄りの一次脳卒中センター搬送群より発症90日目のmRSは有意に悪かった(平均4.93[SD1.38] vs 4.66[1.39];調整共通OR,0.63;95% CI,0.41-0.96).すなわち,最寄りの一次脳卒中センター搬送群の方が血栓回収センター搬送群よりも発症90日目の機能予後は良かった.
90日目の死亡率も血栓回収センター搬送群で高かった(48.9 vs 37.6%,調整HR,1.40;95% CI,0.99-1.99).
最初の病院への搬送中の嘔吐,けいれんなどの医学的合併症も,入院中の肺炎罹患率も,血栓回収センター搬送群で有意に高かった.

【評価】

急性脳主幹動脈閉塞の患者では血栓回収治療が経静脈的血栓溶解(tPA)単独よりも良好な治療効果をもたらし,その効果は時間依存性であることが明らかになってきた(文献2).既報の非ランダム化試験では,血栓回収センターに直接搬入された患者では,地域の一次脳卒中センターから転送された患者よりも転帰が良好なことが示唆されている(文献3,4).このため,いくつかの国や地域では,急性脳主幹動脈閉塞患者を地域の一次脳卒中センターに搬送するよりも,搬送時間が30分から60分以内であれば,血栓回収が出来るセンターへ送るように搬送システムを再編成している(文献5,6,7).
本稿の主体であるRACECAT試験は,救急隊が現場でRACEスケール(>4)に基づいて脳主幹動脈閉塞と判断した脳卒中患者を最寄りの一次脳卒中センターに送ることと少し遠くても血栓回収が出来るセンターに送ることのどちらが良いかというRCTであった.救急隊は急性脳主幹動脈閉塞と判断された1,401例の患者を,ランダム割り当てに従って,688例は血栓回収センターに,713例は最寄りの一次脳卒中センターに搬送した.
このうち,最終診断が虚血性脳卒中であった949例では,一次アウトカムである90日目のmRSは,血栓回収センター搬送群(482例),最寄りの一次脳卒中センター搬送群(467例)とも中央値3(IQR:2~5)であり,差はなかった(調整共通オッズ比1.03;CI,0.82~1.29).これは,血栓回収センター搬送群では血栓回収実施率は有意に高かった(48.8 vs 39.4%;オッズ比1.46)が,tPA投与率は有意に低かった(47.5 vs 60.4%;オッズ比0.59)ことが影響していると思われる.
一方,脳内出血の患者では,抗凝固剤投与患者に対する拮抗薬の投与,降圧治療,集中治療へのアクセスまでの時間の短さが発症30日までの死亡率を低減させることが判っている(文献8).本シリーズでは発症場所から最初の病院までの距離は最寄りの一次脳卒中センター群では中央値12.6(IQR:3.4-27.2)kmで,血栓回収センター群では中央値88.8(IQR:40.2-110.8)km,発症から最初の病院に到着するまでの時間は最寄りの脳卒中センター群では中央値94(IGR:67-170)分,血栓回収センター群では中央値135(IGR:97-184)分,平均差は46.8分(95% CI,14.0-80.8分)であった.一方,最初の病院着院時の血圧中央値は両群でほぼ同様であった(収縮期169 vs 166 mmHg,拡張期91 vs 89 mmHg).
本稿はRACECAT試験に登録された1,401例のうち,脳主幹動脈閉塞ではなく,実際は脳出血であった302例の2次解析である.その結果,血栓回収センター搬送群では最寄りの脳卒中センター搬送群より一次アウトカムである発症90日目のmRSは有意に悪かった.
これには,EVTセンター搬送群における最初の病院に到着するまでの遅れ,すなわち,嘔吐や誤嚥などの合併症の回避,抗凝固剤拮抗薬の投与,降圧治療,集中治療の開始までの時間の遅れが影響を与えているのかも知れない.
日本では3次医療圏(基本的に都道府県)毎の脳主幹動脈閉塞疑い患者の搬送先に関する議論も進行中ではあるが,RACECAT試験主体の解析結果と同時に,脳主幹動脈閉塞疑い患者の約2割を占める脳出血患者の機能予後に関するこの2次解析の結果も参照,勘案すべきであろう.

執筆者: 

有田和徳