半側空間無視は右の弓状束後方成分の障害で起こる

公開日:

2024年5月12日  

最終更新日:

2024年5月13日

Association of disruption of the right posterior arcuate fasciculus with spatial neglect

Author:

Andreoli M  et al.

Affiliation:

Feinberg School of Medicine, Northwestern University, Chicago, Illinois, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:38608308]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2024 Apr
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

半側空間無視は非優位側(右)頭頂葉の障害で起こることが示唆されているが,どの白質構造が直接に関与しているかは明らかになっていない.シカゴ・ノースウェスタン大学脳外科などのチームは,30例の右大脳半球のグリオーマの患者(93%が右利き)を対象に定量的トラクトグラフィーの手法を用いて弓状束内の3成分を含む9個の線維束の障害を解析し,この問題を検討した.弓状束は,中心前回腹側と前頭弁蓋後方から縁上回に向かう前方成分(水平走行),中心前回腹側と前頭弁蓋から中・下側頭回にいたる長成分(弓状走行),角回から側頭葉の後方に向かう後方成分(縦走行)に分けられた.空間無視の判定にはベル消去テストを用いた.

【結論】

対象とした30例のうち17例が空間無視あり群,13例が空間無視なし群と判定された.弓状束後方成分における障害(離断)の頻度は,空間無視あり群では無し群と比較して有意に高かった(42±12.5%[SEM]vs 6.3±4.8%;p <.05).他の8本の線維束の障害頻度に差はなかった.空間無視あり群では無し群と比較して弓状束後方成分内の線維束内streamline数は少なく,FA(fractional anisotropy)値も低かった.さらに空間無視あり群では無し群と比較して,弓状束長成分,IFOF,ILFにおけるstreamline数も少なかったが,FA値には差がなかった.

【評価】

従来の研究では,頭頂間裂や頭頂側頭移行部が空間性注意に深く関係することが指摘されていた(文献1,2).一方,SLF II,SLF III,AF前方成分といった前頭-頭頂間ネットワークと半側空間無視との関係を指摘する報告もあった(文献3,4,5).
本研究では,3T-MRIを用いたDTI,線維束内streamline数,FAの解析を通して,頭頂葉下部と側頭葉後方を結ぶ縦方向の線維束(弓状束の後方成分,文献6,7)が脳実質内腫瘍患者における半側空間無視と有意に相関することを明らかにしている.著者らはこの結果を基に,右弓状束後方成分を介する頭頂-側頭葉間のネットワークが視覚的な空間性注意に重要な役割を果たしていることを示唆している.
本研究結果はグリオーマ患者における臨床的な空間無視の予測と手術戦略の適切化に貢献する可能性がある.

執筆者: 

有田和徳