アスピリン定期服用者では脳動脈瘤コイル塞栓術後の再開通は少ない:Duke大学の525瘤の治療経験から

公開日:

2024年5月12日  

最終更新日:

2024年5月13日

The impact of regular aspirin use on aneurysm recanalization rates after endovascular coiling

Author:

Musmar B  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Duke University Hospital, Durham, NC, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:38608309]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2024 Apr
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

脳動脈瘤に対するコイル塞栓の技術は発達しつつあり,様々な部位,形,大きさの脳動脈瘤がその適用となっている.しかし,コイル塞栓術後の脳動脈瘤の再開通率は20%前後,再治療率は10%前後と高い(文献1).特に,脳底動脈尖端部動脈瘤では再開通率は30%に及ぶ(文献2,3).一方最近,脳動脈瘤の成長/破裂に対するアスピリンの抑制効果が示唆されている(文献4,5).
Duke大学脳外科は,過去10年間にコイル塞栓単独での治療後1年以上追跡された525個の脳動脈瘤を対象に患者のアスピリン服用の有無(定期服用群109個,非服用群416個)が,脳動脈瘤の再開通(RRクラスの1以上の上昇)に及ぼす影響を検討した.

【結論】

両群とも脳動脈瘤サイズは平均5.5 mm前後で,塞栓術直後のRRクラス1は約90%であった.くも膜下出血の既往はアスピリン服用群37%,非服用群32%で有意差はなかった.平均追跡期間もほぼ同等(平均14-15ヵ月)であった.
非服用群と比較してアスピリン服用群では,両再開通率,脳動脈瘤体積の増大率とも有意に低かった(9.2% vs 23.6%,OR 0.33,p =.001 ならびに 5.5% vs 18%,OR 0.265,p =.002). 経過観察中にRRクラス3となり再治療を必要とした割合もアスピリン服用群で有意に低かった(5.5% vs 18%,OR 0.265,p =.002).

【評価】

最近,未破裂脳動脈瘤を有している患者のうちアスピリン服用患者では破裂の頻度が低下していることが相次いで報告されている(文献5,6,7).
本研究は,過去10年間に専らコイル塞栓術だけで治療が行われた脳動脈瘤525個を,患者がアスピリンを定期服用(週に3回以上内服)していた群とアスピリンを服用していなかった群に分けて,アスピリン定期服用が再開通率,増大率,再治療率に及ぼす影響を後方視的に検討したものである.アスピリン定期服用の理由は,大部分が心血管疾患であったという.
両群で年齢,女性の割合,脳動脈瘤径,くも膜下出血の既往,後方循環脳動脈瘤の割合,高血圧,多嚢胞腎,喫煙,スタチン使用などの患者背景に差はなく,初回治療における脳動脈瘤完全閉塞(RRクラス1)の割合や追跡期間にも差はなかった.
結果としてアスピリンの定期服用者では非服用者と比較してコイル塞栓術後の再開通率,増大率,再治療率とも有意に低いことが明らかになった.
アスピリン定期服用者ではガドリニウム投与後の脳動脈瘤壁の造影効果が弱いことが報告されている(文献8).これは,アスピリンの抗炎症作用が影響していると思われる(文献9,10).著者らはアスピリンの抗炎症作用によって脳動脈瘤塞栓術後の再開通や増大も抑制されていると推論している.
ただし,塞栓術前の脳動脈瘤壁のdaughter sacの存在は,非服用群と比較してアスピリン服用群で有意に高頻度であった(39.4% vs 29.3%,p =.049).これが偶然なのか,アスピリン定期内服の影響なのかは不明であると著者らは述べているが,daughter sacがあるような不整形の脳動脈瘤でも再開通は少なかったという事実は興味深い.
いずれにしても,アスピリンというありふれた薬剤の定期服用が,脳動脈瘤コイル塞栓後の再開通を大幅に抑制するかも知れないという本研究結果は,大きなインパクトを有している.ただし,本研究は単一施設の後ろ向き研究であり,その信頼性は今後,多施設前向き研究で検証されなければならない.また,もう一歩踏み込んで,アスピリン非服用者の脳動脈瘤に対するコイル塞栓術後のアスピリン長期投与の意義についても検討されることを期待したい.

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

細山浩史

関連文献