後頭蓋窩上衣腫の分子遺伝学的2亜型(PFA/PFB)の臨床像:北京天壇病院1施設の412例

公開日:

2024年5月23日  

最終更新日:

2024年5月24日

Impact of Molecular Subgroups on Prognosis and Survival Outcomes in Posterior Fossa Ependymomas: A Retrospective Study of 412 Cases

Author:

Wang B  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Beijing Tiantan Hospital, Capital Medical University, Beijing, China

⇒ PubMedで読む[PMID:38529997]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2024 Mar
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

上衣腫は小児-若年成人に好発するWHOグレード2か3の腫瘍で,発生部位と分子遺伝学的背景に基づいて分類される(文献1).後頭蓋窩上衣腫はゲノムコピーナンバー変化に乏しく,CpG islandのDNAメチル化が亢進しているPFAと,コピーナンバー異常多型を示すPFBに分けられる(文献2,3,4).北京天壇病院脳外科などのチームは自験の412例(男性57%,年齢中央値20歳)の後頭蓋窩上衣腫を対象として,この2亜型の臨床像と予後を求めた.
PFAは171例で男性66%,年齢中央値5歳,WHOグレード3が88%であった.PFBは241例で男性51%,年齢中央値36歳,WHOグレード3が33%であった.

【結論】

多変量解析では,PFBと比較してPFAは,OS不良(86 vs 150ヵ月,HR:3.3),PFS不良(32 vs 114ヵ月,HR:4.1)と相関した(ともにp <.001).WHOグレード3も(グレード2と比較して)OS不良と相関した(HR:2.4,p =.010).
PFAでは,肉眼的全摘後の経過観察例より放射線照射群か放射線+化学療法群でOSが良好であった(ともにp =.025).PFBでも,術後放射線照射実施群でOSが良好であった(p =.046).
この2亜型,WHOグレード,放射線照射の有無の3因子からなるノモグラム予測モデルは10年までのOSを正確に予測した(ROC解析のAUC:0.84-0.66).

【評価】

まず,後頭蓋窩上衣腫の症例が単一施設で412例という症例数の膨大さに圧倒される.明記されてはいないが,おそらく20年くらいの期間の症例数と思われる.ただし,北京天壇病院脳外科は19のユニットに600床を擁する世界最大の脳外科施設であること,また患者が中国全土から集まってくることを考えれば(文献5),この症例数も驚くには当たらないかも知れない.
既に,後頭蓋窩上衣腫の2亜型のうち,PFAは男児の乳幼児に多く,WHOグレード3の割合が多く,転移や再発を来しやすい一方,PFBは年長児や成人に多く,性差はなく,PFAに比べて予後が良好というのはよく知られているが(文献1,4,6),本研究でもそのことが裏付けられたことになる.さらに本研究では2亜型分類に加えて,WHOグレード,全摘出後の放射線照射の有無がOSと相関することを明らかにし,これらの3因子を組み合わせたOS予測モデルは高い精度を示している.このモデルの妥当性については他施設症例での検証が必要である.
なお本研究では,PFA/PFBの鑑別には他施設同様H3K27me3の免疫染色を用いている.
興味深いのは,分子遺伝学的特徴に基づくPFA/PFBの2亜型分類とならんでWHOグレードという謂わば古典的ともいうべき病理形態分類がOSと相関する独立因子として残っていることである(p =.010).病理形態には,最新の分子遺伝学的手法も及ばない,腫瘍成長を左右する資質に直結する謎が含まれているということなのか,興味深い.

執筆者: 

有田和徳