一次脳卒中センターから血栓回収センターへの搬送途中で閉塞動脈が再開通してしまう頻度とそれに寄与する因子

公開日:

2024年6月10日  

Arterial Recanalization During Interhospital Transfer for Thrombectomy

Author:

Seners P  et al.

Affiliation:

Stanford Stroke Center, Palo Alto, CA, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:38752736]

ジャーナル名:Stroke.
発行年月:2024 Jun
巻数:55(6)
開始ページ:1525

【背景】

一次脳卒中センターから血栓回収が出来る包括的脳卒中センターへの搬送途中で,閉塞血管が再開通することは時に経験される.
ではその頻度と寄与する因子は何か? 本稿は血栓回収目的で一次脳卒中センターから米スタンフォード大学か仏モンペリエ大学に搬送された前方循環主幹動脈閉塞患者520例(年齢中央値72歳)の解析である.搬送前NIHSS中央値は15(10-20),閉塞動脈はIC:21%,M1近位部:34%,M1遠位部:27%,M2:19%であった.
50%は搬送前-搬送途中に血栓溶解剤が投与されていた.閉塞動脈の再開通はrAOLスコア2b(血管支配領域の半分以上の部分再開通)か3(完全再開通)と定義した.

【結論】

包括的脳卒中センター到着時に再開通と診断されたのは111例(21%)であった.このうち部分再開通は77%で,完全再開通は23%であった.
再開通と相関する因子は,血栓溶解剤投与(aOR:6.8),内頚動脈より末梢の動脈閉塞(M1近位部aOR:2.0,M1遠位部aOR:5.1,M2部aOR:5.0),血栓量(CBSスコア,最大0-なし10)が小さい症例であった(0-4に対して5-7ではaOR:3.4,8-9ではaOR:5.6).
再開通は病院間での脳梗塞の拡大と逆相関し,病院間でのNIHSSの改善と相関し,発症3ヵ月のmRSの良好方向へのシフトと相関した(調整共通OR:2.51).

【評価】

脳主幹動脈急性閉塞患者を血栓回収が出来ない一次脳卒中センターから血栓回収が出来る包括的脳卒中センターに救急搬送するのは,もはや世界中でルーチンの手順となっている.本研究の結果を見ると病院間搬送の時間内に21%という案外多くの症例で閉塞動脈の再開通が得られることが判る.搬送時間は中央値3時間で,再開通群と非再開通群で差はなかった.この結果は2018年に発表された多施設共同研究(INTERRSeCT試験)の結果(27%)とほぼ同一である(文献1).再開通と相関する因子は,血栓溶解剤(tPA)投与,内頚動脈より末梢の動脈閉塞,血栓量が少ない(閉塞範囲が短い)ことであった.特に,血栓溶解剤を投与された症例のうち閉塞部位がM1末梢かM2のものや,閉塞範囲が短いもの(血栓量スコアCBS:8-9)では再開通率が約50%に達していた.当然のことながら,再開通症例では病院間での脳梗塞コアの拡大は少なく,NIHSSの改善が認められ,発症3ヵ月の機能予後も良好であった.
本研究で用いられた血栓溶解剤はアルテプラーゼであるが,アルテプラーゼよりもフィブリン特異性が高く,半減期が長く,ボーラス投与可能なテネクテプラーゼの方が閉塞動脈再開通率が圧倒的に高い(OR:3前後)ことが報告されている(文献2,3,4,5).また経頭蓋超音波パルス照射による閉塞動脈の再開通促進の可能性も示唆されている(文献6,7,8,9).将来は,病院間搬送前に一次脳卒中センターでテネクテプラーゼをボーラスで静注し,超音波発生ヘッドフレームで超音波パルスを加えながらの搬送ということも行われるようになるかも知れない.
本研究対象では,520例の病院間搬送症例のうち実際に血管内治療が実施されたのは62%(324例)であった(再開通群では21%,非再開通群では74%).将来,テネクテプラーゼや経頭蓋超音波パルスが導入されると,病院間搬送に対応して,包括的脳卒中センターの側で,血管内治療がいつでも開始出来るよう人的・物的な準備を整えていても,半数は空振りという時代がくるかもしれない.その場合の,人・物のコストは誰が負うべきなのか,今から議論しておいた方が良い.

執筆者: 

有田和徳