重症の脳内出血に対する外減圧単独手術は死亡を減らす:世界42センターでのRCT(SWITCH試験)

公開日:

2024年6月10日  

Decompressive craniectomy plus best medical treatment versus best medical treatment alone for spontaneous severe deep supratentorial intracerebral haemorrhage: a randomised controlled clinical trial

Author:

Beck J  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, University of Bern, Bern, Switzerland

⇒ PubMedで読む[PMID:38761811]

ジャーナル名:Lancet.
発行年月:2024 Jun
巻数:403(10442)
開始ページ:2395

【背景】

保存的治療と比較して,脳内出血に対する血腫除去術が予後を改善しないことは過去のRCTが証明している(文献1,2,3).では,血腫に手は出さずに外減圧だけ(減圧範囲 ≥12 cm,1-5ヵ月後に頭蓋形成)ならどうか.本研究は,スイスなど世界42ヵ所の脳卒中センターで実施された評価者盲検RCT(SWITCH試験)である.
対象は2014年以降の10年間に診断した天幕上脳深部(被殻,視床)に発生した脳内出血のうち重症(NIHSS:10-20,GCS:8-13,血腫量30-100 mL)の197例.年齢中央値61歳,血腫量中央値57mL.96例は外減圧術に,101例は保存的治療に無作為割り当てされた.

【結論】

ITT解析(190例)では,主要アウトカムである発症6ヵ月目のmRS 5-6の割合は,減圧手術群で低かった(44% vs 58%,調整リスク比0.77[95% CI:0.59-1.01],調整リスク差-13%[95% CI:-26 to 0],p =.057).Per-protocol解析(150例)でも,発症6ヵ月目のmRS 5-6の割合は減圧手術群で低かった(47% vs 60%,調整リスク比0.76[95% CI:0.58-1.00],調整リスク差-15%[95% CI:-28 to 0],p =.052).
重症の有害事象の発生は減圧手術群41%,保存的治療群44%で差はなかった.

【評価】

このSWITCH試験は,比較的重症の脳内出血に対する外減圧術の有効性を検討した世界初のRCTである.ITT解析でもper-protocol解析でも発症6ヵ月目の予後が最重症(mRS 5-6: 寝たきりか死亡)の割合は,保存的治療と比較して外減圧術群で少なかった.しかし,その差はわずかに統計学的な有意水準に達しないレベルであり(p =.057とp =.052),欠測値補完後はp =.042であった.本研究は,当初300例の予定で登録を開始したが,fundが底をついたために201例で登録が打ち切りになっており,これによって統計power不足になったものと思われる.ただし,著者らは数種類の感度解析を行い,それらでも同様の差を得ており,結果の頑健性を示している.
一方,この外減圧手術ではmRS ≤3の機能予後良好患者は増えておらず(13% vs 14%),mRS 4(中等度から重度の障害)の患者群が増えている(40% vs 26%).結局,この結果をみると,脳内出血に対する外減圧手術は死亡は減らすが(16% vs 27%)機能予後は改善しないことがわかる.
最近,脳葉内出血患者については,経脳溝傍神経線維束法(MIPS)を用いた低侵襲的血腫除去が機能予後を改善することが報告されている(文献4).外減圧に加えて,低侵襲的な(部分的)血腫除去を行うことによって機能予後も改善するのか,今後の前向き研究が期待される.

執筆者: 

有田和徳