急性期脳梗塞に対する血栓溶解療法後の機能予後はアルテプラーゼよりもレテプラーゼの方が良好,しかし---: 中国のRAISE試験

公開日:

2024年7月13日  

Reteplase versus Alteplase for Acute Ischemic Stroke

Author:

Li S  et al.

Affiliation:

Department of Neurology, Beijing Tiantan Hospital, Beijing, China

⇒ PubMedで読む[PMID:38884332]

ジャーナル名:N Engl J Med.
発行年月:2024 Jun
巻数:390(24)
開始ページ:2264

【背景】

急性期脳梗塞に対する血栓溶解療法の主役はアルテプラーゼであるが,新規の血栓溶解剤テネクテプラーゼがアルテプラーゼよりも有効性が高いことは,いくつかのRCTやメタアナリシスで示されている(文献1,2,3).本研究は,遺伝子組換え型プラスミノーゲン活性化因子レテプラーゼとアルテプラーゼの効果を比較した中国62施設によるRCT(RAISE試験)である.脳梗塞発症後4.5時間以内にランダム化が可能であった1,412例をレテプラーゼ群(最初に18 mgボーラス+30分後に18 mgボーラス)707例とアルテプラーゼ群(0.9 mg/kg,最初に10%をボーラス+残りを1時間で点滴)705例に無作為に割り付けた.

【結論】

一次有効性アウトカムは発症90日目のmRS 0-1(機能予後が極く良好),一次安全性アウトカムは発症から36時間以内の症候性頭蓋内出血とした.
一次有効性アウトカムは,レテプラーゼ群79.5%,アルテプラーゼ群70.4%であった(リスク比1.13;95%CI,1.05-1.21;非劣性p <.001,優越性p =.002).
一次安全性アウトカムは,レテプラーゼ群2.4%,アルテプラーゼ群2.0%で(リスク比1.21;95%CI,0.54-2.75),有意差はなかった.
ただし,発症後90日間の全頭蓋内出血と全有害事象の頻度はレテプラーゼ群で高かった(リスク比1.59と1.11).

【評価】

レテプラーゼはアルテプラーゼの変異株で,アルテプラーゼと比較して,肝細胞での分解を受けにくいため血中半減期が15分と長く(アルテプラーゼは4-6分),フィブリンとの親和性が低いため血栓内部に十分に浸透し溶解することが期待されている.レテプラーゼでは30分間隔をおいた2回のボーラス投与が行われており,アルテプラーゼ(0.9 mg/kg)の最初に10%をボーラスで残り90%を1時間かけて点滴という投与法よりも簡易である.急性心筋梗塞の領域ではアルテプラーゼと比較して30日間死亡率や障害の残る非致死性脳卒中の発生率はアルテプラーゼと差がないことが報告されている(文献4,5,6).
本研究は,急性期脳梗塞患者1,412例を対象としたRCTであるが,アルテプラーゼと比較して,レテプラーゼの投与がより良好な機能予後をもたらすことを明らかにした.このことは,事前設定された一次有効性アウトカム(発症90日目のmRS 0-1)の頻度だけではなく,発症90日目のmRS 0-2の頻度(85.3% vs 79.8%,リスク比1.07),mRS中央値(0 vs 1,共通オッズ比0.61),発症90日目のBarthelインデックス・スコア ≥95の頻度(82.0% vs 76.2%,リスク比1.08)によっても明らかである.特に一次有効性アウトカムは,年齢>60歳の群,男性群,入院時NIHSS >7の群で差が大きかった(リスク比はそれぞれ1.20,1.15,1.29).
一方,事前設定された一次安全性アウトカムである発症から36時間以内の症候性頭蓋内出血については2群間で差はなかったものの,発症後90日以内の全頭蓋内出血と全有害事象の頻度はレテプラーゼ群で高かった(7.7% vs 4.9%と91.6% vs 82.4%).
この結果を受けて著者らは,レテプラーゼの潜在的な利点は,有効性と致命的な出血のリスクとの間の有利なトレードオフ関係にあると,どちらかと言えばその効果の方を重視する結論を示している.今後,他の前向き試験で検証されるべき結論であろう.
既に日本では,テネクテプラーゼ vs アルテプラーゼの医師主導RCTが進行中であるが(文献7),過去のエビデンスを見ると,急性期脳梗塞に対するテネクテプラーゼ投与は近い将来日本でも導入される可能性がある.
今後は,このテネクテプラーゼと本研究の対象となったレテプラーゼとの直接比較試験も必要であろう.

執筆者: 

有田和徳