慢性硬膜下血腫による片麻痺の頻度,リスク因子,予後:シダーズ・サイナイ医療センターの311例の解析

公開日:

2024年7月29日  

最終更新日:

2024年8月5日

Focal motor weakness and recovery following chronic subdural hematoma evacuation

Author:

Nisson PL  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Cedars-Sinai Medical Center, Los Angeles, CA, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:38875718]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2024 Jun
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

慢性硬膜下血腫に片麻痺を伴うことは多く,通常は血腫除去術で軽快するが,時に麻痺が持続する患者がいる.
シダーズ・サイナイ医療センター脳外科は,過去8年間に血腫除去術を行った慢性硬膜下血腫初回治療の311例(年齢中央値72歳,男性76%,有症状期間平均9.5日,片側性77%,平均血腫厚21 mm)を対象に,合併する片側筋力低下(麻痺)の臨床像を解析した.104例(33%)に片側筋力低下が認められた.筋力低下は下肢と比較して上肢の方が有意に多かった(29% vs 18%,p <.001).43例(13.8%)では上下肢ともに筋力低下が認められた.84%で開頭手術が,16%でバーホール手術が行われた.

【結論】

診断時の片側筋力低下のリスク因子は,多変量解析で,高年齢(OR 1.02,p =.03),血腫厚(OR 1.04,p =.02),一側性血腫(OR 2.32,p =.008)であった.
手術前に片側筋力低下が認められた104例中,手術後退院(入院期間は約10日)までに68%で筋力低下が改善し,58%では筋力低下が消失した.多変量解析では術前症状の短さが術後の筋力低下の改善と相関し(OR 0.96,p =.024),低年齢が術後退院までの筋力低下の完全消失と相関した(OR 0.96,p =.02).
104例中20人(19%)は手術後退院までに筋力改善は認められず,13人(13%)の筋力はむしろ悪化した.

【評価】

従来,慢性硬膜下血腫における片側筋力低下(麻痺)発現の頻度は48-80%と報告されており,そのリスク因子としては高齢,片側病変,血腫厚,血腫内圧,血腫の部位,中心線偏位の程度などが指摘されている(文献1-5).
本稿はロス・アンジェルスのシダーズ・サイナイ医療センター脳外科で治療した慢性硬膜下血腫患者における片側筋力低下(麻痺)の術前・術後の臨床像を解析した研究である.このテーマに関する研究としては過去最大の311例が対象となっている.本稿によれば,診断時(術前)の片側筋力低下の頻度は33%で,片側筋力低下のリスク因子は,多変量解析で,高年齢,血腫厚,一側性血腫の3項目であった.中心線の偏位は関係ありそうだが,単変量解析でもp =.08と有意差には届いていなかった.なお,下肢と上肢を比較すれば上肢の筋力低下の頻度が高いのは,慢性硬膜下血腫の多くが円蓋部に存在し,大脳半球上外側面への圧迫が強いことと関係していることは容易に想像出来る.
一方,多変量解析で,手術後退院時点での片側筋力低下の改善と相関したのは術前症状の短さで,逆に発症から手術までの期間が一日延びる毎に退院時点で筋力が改善するチャンスが4%ずつ低下した.なお筋力低下の完全消失と相関したのは低年齢であった.
本研究で,慢性硬膜下血腫患者における片側筋力低下(麻痺)の頻度が過去の報告と比較して低かった理由について著者らは述べてはいないが,近年,頭痛や肩こりなどの非局在性症状の理由でCTやMRIなどの頭部画像検査を受ける患者が増えていることを反映しているのかも知れない.
本稿を読んでの最大の驚きは,著者らの施設では実に84%の症例で開頭(craniotomy)手術が行われていることである.これは何か? その理由について,またどのような大きさの開頭なのかについても著者らは言及していない.急性硬膜下血腫の合併例は最初に除外していると明記されているので , 混入している可能性は低い .ただし部分的に亜急性の成分を含有する症例は少しは混入しているかも知れない.もしかすると,バーホール手術も全身麻酔下で実施するお国柄なので,どうせ8時間絶食させて全身麻酔をやるなら,1回の手術で血腫除去と血腫腔洗浄を確実に実施したいという思惑なのか? うがち過ぎかも知れないが ,レジデントの開頭手術の経験数を増やしてあげたいという忖度が有るのかも知れない.また,本研究に対する大きな不満点は,エンドポイントの設定が退院時点(入院期間は約10日)での筋力低下の改善や消失であり,脳卒中などの臨床研究で多用される治療後90日目ではないことである.今後,より長期の追跡結果の解析に期待したい.

執筆者: 

有田和徳