小脳橋角部脳動静脈奇形38例に対する後S状静脈洞法による摘出術

公開日:

2024年7月29日  

Arteriovenous malformations in the cerebellopontine angle: assessment of the "backdoor resection" technique and microsurgical results in 38 patients

Author:

Hanalioglu S  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Barrow Neurological Institute, St. Joseph's Hospital and Medical Center, Phoenix, Arizona, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:38875719]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2024 Jun
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

後頭蓋窩脳動静脈奇形(AVM)は全脳のAVMの7-15%を占めるが,天幕上AVMに比較して,出血発症が多く,一般に予後不良である(文献1-4).フェニックス市聖ヨゼフ病院脳外科は本稿の責任著者であるLawton MLが過去25年間に治療した176例の後頭蓋窩AVMのうち22%を占める小脳橋角部AVM38例の治療経験をまとめた.出血発症29例,進行性神経症状7例,偶発病変2例であった.3例が過去に定位手術的照射を受けた.ナイダスは92%が<3 cmで,82%はコンパクトタイプであった.部位別では58%が錐体-小脳型,29%が橋外側型,13%が混合型であった.37%に血流関連動脈瘤が認められた.

【結論】

53%は術前塞栓術を受けた.
全例で摘出手術を行い,92%で後S状静脈洞アプローチをとり,71%ではそこから小脳・脳幹の外側表面に存在するAVMを接線方向に後方から剥離し離断するバックドア・テクニックで摘出した.
手術後,92%で血管撮影上の病変完全消失が得られた.出血発症で神経症状不良であった5例(13%)が死亡退院した.7例(18%)で手術後の新規神経症状出現があり,このうち5例では症状は一過性であった.中央値1.7年の最終追跡段階で32例が生存し,30例(79%)は機能予後良好(mRS:0-2)であった.最終追跡時の機能予後不良(mRS:3-6)の予測因子は術前mRSであった.

【評価】

出血発症29例(76%)を伴う小脳橋角部AVM38例(術前のS-MグレードIII-IV:58%)に対する,主としてバックドア・テクニック(後S状静脈洞アプローチ)による摘出術の成績である.全体の92%で手術後ナイダスが消失し,出血によって手術前から重篤な神経症状を呈した5例が入院中に死亡したが,手術による恒久的な神経症状が残ったのは2例(5%)のみであった.最終追跡段階での機能予後良好(mRS:0-2)は79%であったという.優れた手術成績と思われる.
著者らはこの結果を受けて,小脳橋角部AVMに対してはバックドア・テクニック(後S状静脈洞アプローチ)による摘出術が治療の主体であるべきだと結論している.一方,ガンマナイフなどの定位手術的照射(SRS)は,摘出手術のリスクが高い,びまん性で脳幹内成分が大きい未破裂のAVMに限るべきだと述べている.
本稿は過去最大の38例の小脳橋角部AVMを対象としているが,本稿以前のシリーズとしてはYaşargil MGの10例(文献5,1988年),新潟大学のNishino Kらの10例(出血例6例)が最大のものである(文献6,2017年).Nishino Kらのシリーズでは7例が三叉神経痛を呈しており,本稿のシリーズで三叉神経痛が1例のみ(2.6%)であったのとは対照的である.またNishino Kらのシリーズでは初回治療としての7例を含む9例でガンマナイフによるSRSが実施されており,治療後の出血は栄養動脈上の動脈瘤からの再出血の1例のみであったという.
本稿のシリーズでは,SRSを治療の第一選択とせず,92%の症例で摘出手術を治療の第一選択としているが,その理由として,SRSではAVMナイダスの完全閉塞までに2-3年を要し,その間の出血率が17%以上と高いこと(文献7,8),後頭蓋窩AVMでは天幕上AVMと比較してSRS後のナイダス閉塞率が低いことを挙げている(文献9,10).
小脳橋角部AVMは少ないので,RCTは困難と思われるが,今後,過去の報告例を基に傾向スコアマッチングなどの方法で交絡因子を調整して,摘出手術とSRSの効果や有害事象発生の比較が必要であろう.

執筆者: 

有田和徳

関連文献