公開日:
2024年8月9日最終更新日:
2024年8月9日Intra-operative hypertension as a predictor of surgical outcomes in microvascular decompression surgery for trigeminal neuralgia
Author:
Gupta B et al.Affiliation:
Department of Neurological Surgery, Pauline Braathen Neurological Center, Cleveland Clinic Florida, FL, USAジャーナル名: | Acta Neurochir (Wien). |
---|---|
発行年月: | 2024 Jul |
巻数: | 166(1) |
開始ページ: | 297 |
【背景】
三叉神経痛に対する神経血管減圧手術で,三叉神経根に直接手術操作が加わった時(MTN)に,突然の除脈になり,あっ!三叉神経心臓反射(TCR)だなと気づくことはある(文献1).しばらく手術操作を止めアトロピンを投与すれば,多くの場合は直ぐに解決する問題ではある.
しかし,クリーヴランドクリニック・フロリダのGupta BらはMTNの最中に,むしろ血圧が上昇する症例があることに気づいたという.彼らは,これもTCRの一型だと考えている.本稿は2013年からの10年間に実施した三叉神経痛手術症例90例(平均61.0歳,女性64.4%)を解析して,この血圧上昇型TCRの臨床的意義を検討したものである.
【結論】
MTNの最中に脈拍と血圧が急に下がる古典的なTCRは2例(2.2%)のみに認められた.72例(80%)の患者ではMTNの最中に血圧上昇(≥140/90)が認められた.これらの症例の平均収縮期血圧は,術前128 mmHg,MTN中153 mmHgであった.術後バロー神経研究所[BNI]疼痛スコア(1~5,1:痛みなし~5:激しい痛みで薬物での改善なし)は,術前BNIスコアや病悩期間にかかわらず,MTN中高血圧出現の有無と相関した(MTN中高血圧有り群1.46 vs なし群2.0).線形回帰モデル解析でもMTN中高血圧の出現は低いBNI(高い手術効果)と相関した(p =.006).
【評価】
Schallerによれば,三叉神経痛に対する神経血管減圧手術中の三叉神経根に対する直接的操作に際して,三叉神経心臓反射(TCR,20%以上の血圧下降と脈拍の低下)は18%の症例で発生するとされ,稀なものではない(文献1).
しかし,神経血管減圧手術中の三叉神経根に対する直接的操作の際に血圧が上昇するパターンのTCRについての記載は本稿が初めてである.
ただし,経皮的ガッセル神経節凝固術でも施術中の血圧上昇が見られることが知られている(文献2).また,バルーンによるガッセル神経節後神経切断術(balloon compression rhizotomy)術中にも高血圧が認められ,これが手技の成功を意味しているとの報告がある(文献3).さらに,神経血管減圧術後再発例や初回手術でも圧迫血管が見当たらない時に,三叉神経根神経線維束の分離(trigeminal nerve combing)が行われる事があるが(文献4,5),このcombing操作中の高血圧は80%以上の症例で認められ,そのような症例では術後の症状改善が得られやすいとの報告もある(文献6).
こうした事実を見ると,三叉神経根への手術操作の部位や程度によって,血圧上昇型のTCRが起こる可能性がありそうに思われるが,何故それが手術の成功を予測する因子となるのかについては,著者らは記述していない.
日本における三叉神経痛のハイボリュームセンターでの追試に期待したい.
執筆者:
有田和徳関連文献
- "1) Schaller B. Trigemino-cardiac reflex during microvascular trigeminal decompression in cases of trigeminal neuralgia. J Neurosurg Anesthesiol 17:45–48, 2005"
- 2) Zuo Y, et al. Continuous Intra-Arterial Blood Pressure Monitoring Improves the Efficiency of Percutaneous Balloon Compression of the Trigeminal Ganglion for Trigeminal Neuralgia. Pain Res Manag 3;2022:7567630, 2022
- 3) Meng Q, et al. Cardiovascular responses during percutaneous radiofrequency thermocoagulation therapy in primary trigeminal neuralgia. J Neurosurg Anesthesiol 20:131–135, 2008
- 4) Li MYG, et al. Nerve combing treat for trigeminal neuralgia. Zhonghua Er Bi Yan Hou Za Zhi (China) 30:377, 1995
- 5) 森 健太郎 他.難治性三叉神経痛に対する “nerve combing” による治療経験.脳神経外科ジャーナル.31:464-469, 2022
- 6) Liu J. Relationship between arterial blood pressure during trigeminal nerve combing and surgical outcome in patients with trigeminal neuralgia. World Neurosurg 137:e98–e105, 2020
参考サマリー
- 1) 再発三叉神経痛に対する再手術後の痛み無し(BNIスコアIかIIIa)は術後6年の長期観察でも80.8%と高い
- 2) 三叉神経痛の術前MRIは高解像度撮像法でも,圧迫血管診断の陰性適中率が低い(33.4%):ジョンズ・ホプキンズ大学1,020例の解析
- 3) 三叉神経痛に対する神経減圧手術後3年目の疼痛完全消失率は80%:日本における多施設前向き登録研究
- 4) 三叉神経痛の手術において,三叉神経根を貫いている血管をどうすべきか:連続58例の解析
- 5) 椎骨脳底動脈による三叉神経痛の26手術例:椎骨脳底動脈と完全に分離しなくても良い
- 6) 三叉神経痛術後寛解予測スコアリング(1~5)の開発
- 7) 三叉神経痛患者の20%にオピオイドが投与されている:USA
- 8) 三叉神経痛に対する神経血管減圧手術の長期効果と効果予測因子:46研究(3,897例)のメタアナリシス
- 9) 神経減圧手術直後に三叉神経断面積が回復する症例では長期の疼痛消失が得られる
- 10) 神経血管減圧手術後には両側性の低音域聴力低下が起こり得る:埼玉医科大学