WHOグレード1髄膜腫の再発を左右する遺伝子背景は何か:PGK1高発現との関係

公開日:

2024年8月26日  

Gene Expression Changes Associated With Recurrence After Gross Total Resection of Newly Diagnosed World Health Organization Grade 1 Meningioma

Author:

Morshed RA  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, University of California San Francisco, San Francisco, California, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:39101743]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2024 Aug
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

WHOグレード1の髄膜腫の全摘出後であっても,早期に再発する腫瘍と再発しない腫瘍がある.その分子遺伝学的な背景は何か.UCSF脳外科などのチームは全摘出したWHOグレード1の髄膜腫442例を追跡して,再発髄膜腫の遺伝子発現の特徴を解析した.442例全例について,髄膜腫の再発と生命予後に関する過去の研究で用いた34個の遺伝子からなるパネルを用いて遺伝子発現を評価した(文献1).
中央値5.0年(IQR 2.6-7.7)の追跡期間に36例(8.1%)が再発を示した.再発までの期間中央値は2.9年(範囲:0.5-10.7年)で,5年間LFFR(局所無再発率)は90.5%であった.

【結論】

再発には11個の遺伝子発現が関与していた.再発した腫瘍ではARID1B,ESR1,LINC02593,PGR,TMEM30Bの5遺伝子の発現が低く,CDK6,CDKN2C,CKS2,KIF20A,PGK1,TAGLNの6遺伝子の発現が高かった.この中では解糖系酵素であるPGK1の効果量が最大であった(0.195).上記の11個の遺伝子のK Meansクラスター解析では2つの分子グループが局所再発と相関する腫瘍群として抽出された.PGK1,CDK6,CDKN2C,CKS2,ESR1,KIF20Aの発現が高いグループ2は,これらの発現が低いグループ1に比較して有意に再発率が高かった(OR 2.9,p =.005).

【評価】

PGK1は解糖系酵素Phosphoglycerate Kinase 1をコードする遺伝子で,多くの癌腫においてその発現が増加している(文献2,3).乳癌,頭頚部癌,肝臓癌では,PGK1の発現が高い腫瘍は低い腫瘍に比べて予後不良であることが知られている.本研究ではWHOグレード1髄膜腫においてもPGK1遺伝子の高発現が再発と相関することを明らかにした.またK Meansクラスター解析では,WHOグレード1髄膜腫のうちPGK1を含む6個の遺伝子(PGK1,CDK6,CDKN2C,CKS2,ESR1,KIF20A)の発現が強い群(グループ2)では,これらの遺伝子の発現が低い腫瘍群(グループ1)に比べて再発率が有意に高く(OR 2.9,p =.005),また再発までの期間が短いことも明らかにした(log-rank,p =.0123).グループ2を構成する高発現遺伝子群には,CDK6やCDKN2Cも含まれているが,この2つは細胞周期チェックポイント遺伝子であり,既に髄膜腫の再発との関係が報告されている(文献4-7).さらに,再発髄膜腫に対するCDK 4/6抑制剤の効果についても検討されている(文献8).
今後,全摘出後の病理像でWHOグレード1髄膜腫と診断されても,髄膜腫遺伝子パネル検査で高リスク群と判定されれば,より綿密な画像フォローアップを行い,より早期の再発診断と治療介入が行われる時代が来るかも知れない.

執筆者: 

有田和徳