CEA術後の過灌流が2年後の認知機能に与える影響:岩手医科大学のCEA 460症例から

公開日:

2024年9月15日  

Impact of postoperative cerebral hyperperfusion on 2-year cognitive outcomes of patients undergoing carotid endarterectomy

Author:

Araya S  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Iwate Medical University School of Medicine, Morioka, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:39126727]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2024 Aug
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

頚動脈血栓内膜剥離術(CEA)後の過灌流が,手術後1-2ヵ月での認知機能低下をもたらすことは知られている(文献1-3).しかし,手術後長期の影響については明らかになっていない.本研究は過去20年間に岩手医科大学で実施された460例のCEAを対象に,過灌流が認知機能に与える長期的な影響を検討したものである.CEA直後のSPECTでは,58例(13%)で過灌流が観察された.このうち41例(71%)では3日後のSPECTで過灌流は解消され,無症候性と判断された.残りの17例(29%)ではSPECT上で過灌流は増悪し,過灌流症候を呈したので,プロポフォール昏睡治療が行われ,その後,全例症状の消失が得られた.

【結論】

全460例中,認知機能低下と診断された患者の割合は,手術後1-2ヵ月で49例(11%)で,2年後は31例(7%)と有意に減少した.
手術後1-2ヵ月での認知機能低下の頻度は,無症候性過灌流の患者に比べて,症候性過灌流の患者で有意に高かった(100% vs 44%,p <.0001).手術後1-2ヵ月で認められた認知機能低下は,症候性過灌流の患者では,2年後もその頻度はほぼ不変であったが(88%),無症候性過灌流の患者では有意に低下した(39%,p =.0001).
ロジスティック回帰解析では,2年後の認知機能低下は手術直後の無症候性過灌流,症候性過灌流,経過観察中の新規脳卒中の発生と有意に相関した.

【評価】

本研究では,CEA後に過灌流を呈した患者(全体の13%)では,手術後1-2ヵ月での認知機能の低下が約60%に発生し,特にけいれん,意識障害,局所神経症状などの過灌流症候を呈した患者では100%に発生することを明らかにしている.また,手術後の過灌流の影響は長期に及び,CEA後2年の段階で,無症候性過灌流の症例では約60%の患者で回復するが,症候性過灌流の患者では回復を示した患者は少なかった(12%).
CEA後の過灌流が認知機能に与える長期的なダメージの原因について著者らは,①過灌流が血液・脳関門を傷害し,血液中の有害物質が神経組織内に流入する,②有害物質の流入は脳代謝を減少させ,白質の微小構造や皮質における神経伝達物質受容体のマイルドではあるが広範囲な障害を引き起こす可能性を挙げている(文献1-5).過灌流がCEA後の3日目以降も持続する症候性過灌流の症例では,このような白質あるいは皮質における障害が非可逆的な変化をもたらすことを示唆している.

<著者コメント>
CEAの対象者は70歳前後であるので,復職はあまり問題にならず認知機能の低下は社会的に影響が少なかったため,これまで検討されてこなかったと思われる.我々の施設では,1990年代の後半から定期手術はすべて前向きに神経心理検査を行うというプロトコルで臨床研究を行ってきて,術後も1人の脳外科医が20年以上も追跡してきたことで,このような結果を得ることができた.なお,CEA後の認知機能低下の70%は過灌流であるが,残り30%は術前の強い白質病変+手術操作中のA-to-A emboliによる虚血巣が原因であることを最近証明した(文献6).これらの結果からは,過灌流と術中虚血巣が起こりやすいCASよりCEAの方が術後認知機能低下という観点からは有利であると考えられる.
また,過灌流に関してはむしろCEAよりも起こりやすく,働き盛りに発症する虚血発症成人もやもや病の方が問題である.すなわち,虚血発症成人もやもや病に対する直接血行再建術後過灌流症候群も不可逆的認知機能低下をもたらすことが我々の前向き研究で証明されている.術後半年以内の元職への復帰率も悪く,こちらのほうが社会的にはインパクトが大きい.虚血発症成人もやもや病後の復職に関してはいずれpublishする予定である.
最後に強調したいのは,多施設研究あるいはビッグデータ研究全盛の今こそ,「自施設のデータ」,「前向き研究」,「長期追跡」を大切にして,自分自身の臨床力が高まるin-house研究を若い脳外科医にはしていただきたいということである.(岩手医科大学学長 小笠原 邦昭)

執筆者: 

有田和徳