前脈絡叢動脈瘤の治療成績はクリップやコイルよりフローダイバージョンが良かった:25報告1,627例のメタアナリシス

公開日:

2024年9月26日  

最終更新日:

2024年9月27日

Anterior choroidal artery aneurysms: a systematic review and meta-analysis of outcomes and ischemic complications following surgical and endovascular treatment

Author:

Barhouse P  et al.

Affiliation:

Division of Neurosurgery, Beth Israel Deaconess Medical Center, Harvard Medical School, Boston, MA, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:39126718]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2024 Aug
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

前脈絡叢動脈の動脈瘤は全脳動脈瘤の2-5%を占める(文献1).前脈絡叢動脈は,鈎,海馬前部,扁桃体,大脳脚,視床下部,視床外側,外側膝状体,内包後脚などを灌流するので,その閉塞は運動・感覚障害,同名半盲,嗜眠などの重篤な症状を呈する(文献1).このため,前脈絡叢動脈瘤の治療には相応のリスクが伴う(文献2).本研究は過去の25報告1,627例(破裂瘤651例)を対象として,至適な治療法を検討したものである.治療法の内訳はクリッピング1,064例,コイリング443例,フローダイバージョン(FD)120例であった.最終追跡時にGOS 4-5あるいはmRS 0-2であったものを機能予後良好と定義した.

【結論】

平均追跡期間は19ヵ月.全症例の最終追跡時の機能予後良好率は90.3%,治療による合併症率は11.6%,虚血性合併症率は5.5%,死亡率2.21%であった.
各治療法群毎の最終追跡時の動脈瘤完全閉塞率,機能予後良好率,合併症率,虚血性合併症率,死亡率は,①クリッピング群で84.5%,88.0%,17.6%,9.4%,2.30%,②コイリング群で74.1%,88.6%,10.3%,3.0%,2.26%,③FD群で79.0%,98.4%,1.3%,0.7%,0.83%であった.
FD群は他の2群に比べて,治療による合併症率や虚血性合併症率が有意に低く,機能予後良好率は有意に高かった.

【評価】

25報告1,627例の前脈絡叢動脈瘤を対象としたこのメタアナリシスは,フローダイバージョンの症例は未だ120例と少ないが,クリッピングやコイリングと比較して治療による合併症率や虚血性合併症率が有意に低く,機能予後良好率は有意に高いことを明らかにした.特に,虚血性合併症率に関しては,FD群で0.7%とクリッピング群の9.4%と比較してはるかに少なかった(p <.001).一方,動脈瘤完全閉塞率は,FDで79.0%とクリッピングの84.5%に比べればわずかに低かったが,これはFD群での追跡期間が平均14.6±3(SD)ヵ月と追跡期間が短い症例が含まれていることが影響しているのかも知れない.
ただし,これらの結果は,各群における破裂動脈瘤の比率の違い(クリッピング群39.0%,コイリング群45.8%,FD群27.5%)を考慮に入れて理解されなければならない.また,前脈絡叢動脈の分岐部が動脈瘤ネックやドームに存在していると,当然,治療による虚血性合併症の頻度は高くなる(文献3-6).したがって,本研究で解析の対象となっていない前脈絡叢動脈分岐部の各群間の差異が治療結果に与えた影響も否定はできない.今後は,破裂の有無,動脈瘤の大きさ,前脈絡叢動脈分岐部の位置などを評価の対象に加えた傾向スコア解析などの手法で,本研究で示唆されたフローダイバージョンの優位性が検証されなければならない.

<コメント>
後方視的コホート研究なので一概に比較できないのは当然である.しかしながら25報告1,627例の前脈絡叢動脈瘤に対するこの大規模なメタアナリシスの結果を見ると,フローダイバーター(FD)がクリップやコイルより有用である可能性は否定出来なさそうである.前脈絡叢動脈瘤は,破裂あるいは未破裂で多少の相違はあるが,基本的には前脈絡叢動脈の温存が必須となる.それを左右する因子として,動脈瘤の大きさ(小さ過ぎても大き過ぎても問題),前脈絡叢動脈の分岐位置(neckなのかdomeなのか),術前検査で認識できない小さな前脈絡叢動脈と動脈瘤との関係,術者のスキル,使用するデバイスなどがあげられる.前脈絡叢動脈瘤の治療は,他部位の脳動脈瘤と比較して難易度が高く,過去の報告にあるようにクリップやコイルの合併症としては大小を含めて10%程度というのは妥当なところと考えられる.クリップにしろコイルにしろそれなりの術者のスキルが必要となるのは大前提であるが,開頭してみて動脈瘤に前脈絡叢動脈が癒着していたり,クリップしたは良いが前脈絡叢動脈の血流が低下・消失することは稀ではない.ダブルカテーテルを用いたコイル塞栓術で前脈絡叢動脈の温存を試みるもコイルがその起始部にかかったりするシチュエーションは,症候性梗塞とはならなくとも誰しも遭遇したことがあるはずだ.
一方,最近FDによる動脈瘤治療が増加しているが,ある程度のスキルがあれば手技的には,クリップやコイルよりも難易度は高くなく,最短で40分程度で手術が終わることもある.もちろんFDに関しては,抗血小板療法を十分に行える未破裂動脈瘤に限る(今後は破裂へも適応拡大する可能性があるが),合併症は少ないが閉塞率もやや低い可能性,長期的な予後が不明などの問題はある.しかし言い過ぎかもしれないが,現時点でも,その効果と安全性はクリップやコイルと同等の可能性がある.今後,FD留置手技の簡便化,血栓性合併症に対する予防や対応の向上,内皮化促進FDデバイスの導入など,FD関連技術がますます進化することが予想される.将来的には,FDが前脈絡叢動脈瘤に対する治療のファーストチョイスとなることが十分期待できると考えている.(鹿児島市立病院脳神経外科 西牟田洋介)

執筆者: 

有田和徳