脳動脈瘤に対するフローダイバージョン後の血栓塞栓性イベントの頻度とリスク因子:ハーバード大学関連病院における連続591例

公開日:

2024年10月16日  

最終更新日:

2024年10月17日

Timing, type, and impact of thromboembolic events caused by flow diversion: a 10-year experience

Author:

Ramirez-Velandia F  et al.

Affiliation:

Neurosurgical Service, Beth Israel Deaconess Medical Center, Harvard Medical School, Boston, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:39151194]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2024 Aug
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

脳動脈瘤に対するフローダイバージョン(FD)の適応は拡大しつつあるが,FD後の血栓塞栓性合併症(TE)は抗血小板剤2剤投与(DAPT)下でも発生率は4-8%とされている(文献1,2,3).ベス・イスラエル・ディーコネス医療センター脳外科は,過去10年間に実施した連続651件(591症例,746動脈瘤)のFD後に生じたTEの頻度,臨床的転帰,リスク因子を解析した.
動脈瘤は91.8%が嚢状,前方循環90.6%,後方循環9.4%であった.5.7%で複数のFDデバイスを用いた.
アスピリンに加えてクロピドグレルかチカグレロルによるDAPTが術後3-6ヵ月間行われ,その後アスピリン単独の内服が維持された.

【結論】

TEは38例(5.8%)で生じ,20例に恒久的障害が残り,4例が死亡した.TE発生の機序は,11例がステントの血栓化,11例が主幹動脈閉塞,9例が穿通動脈領域の梗塞であった.TE発症後中央値9.5ヵ月の追跡期間後,73.0%がmRS ≤2の転帰良好であった.死亡例の4例中3例は椎骨動脈-脳底動脈主幹部での閉塞が原因であった.前方循環のTE症例では,中大脳動脈閉塞症例11例中7例,内頚動脈閉塞症例12例中9例が最終的に自立となった.Cox回帰解析では,TE発生はアスピリン抵抗性と独立相関したが(HR 2.66,p =.04),クロピドグレル抵抗性,後方循環,複数FDデバイスの使用は相関しなかった.

【評価】

FDデバイス自体の改良,術者の経験値の上昇,治療手技の向上,血小板機能テスト(PFT:platelet function testing)の改良によって,近年のFD後の血栓塞栓性合併症(TE)の頻度は減少しつつある(文献4).
本研究は,ハーバード大学医学部関連のベス・イスラエル・ディーコネス医療センターで過去10年間に実施した連続651件(591症例)のFD後のTEに関する後方視的解析である.FD後はDAPTが3-6ヵ月間行われ,その後アスピリン単独の内服が維持された.その結果,TEは38例(5.8%)で生じ,20例(3.4%)に恒久的障害が残り,4例(0.7%)が死亡した.TEが起こった38例中9例はFD留置術の最中に生じた.29例ではFD留置後に生じたが,そのうち16例はFD後1ヵ月以内に生じた.その他の13症例ではFD後31-671日に生じた. 
本研究のシリーズでも,2013-2014年のFD治療を開始した当初はTEの頻度は20%前後と高かったが,その後経験値の上昇とともに急速に低下し,前方循環に関しては現在ほぼ5%以下に落ち着いているようである.ただし後方循環に関してはまだ不安定で,TE率が33%という年もある.
本研究では,全体の71.1%で,light transmission aggregometry(LTA)を用いた血小板凝集能でPFTを評価したが,クロピドグレルに対しLTA ≥最大凝集の45%の抗血小板剤抵抗性を示した場合は,チカグレロルに変更された症例が多かった.一部にプラスグレルに変更された症例もあった(4%).全体でクロピドグレル抵抗性は42.2%,アスピリン抵抗性は30.5%で認められた.
単変量解析では,TE発生症例はTE非発生症例と比較して,相対的高齢,非嚢状動脈瘤,大型動脈瘤,後方循環動脈瘤,複数のFDデバイスの使用,クロピドグレル抵抗性,アスピリン抵抗性の患者が多かった(いずれもp <.05).
一方,Cox回帰解析では,TE発生はクロピドグレル抵抗性,後方循環,複数のFDデバイス使用とは相関しなかったが,アスピリン抵抗性と独立相関したという.
TEが発生した患者の転帰について,2016年に発表されたIntrePED登録研究(793例)でTE発生率は4.5%であるが,TE発生症例における死亡率は27.8%で,残りの72.2%では神経症状が1週間以上続いた(文献5).片や本研究ではTE発生症例における死亡率は10.8%と低く,中央値9.5ヵ月の経過観察期間後には73.0%がmRS ≤2の転帰良好であった.
本研究結果で興味深いのは,TE発生がアスピリン抵抗性と独立相関したことである.脳血管ステンティング患者の4.2-21%にアスピリン抵抗性が観察されると報告されているが(文献6),本研究ではアスピリン抵抗性(LTA ≥最大凝集の20%)の頻度は30.5%であったという.今後FDは益々普及すると考えられるが,FD前のPFTで各種抗血小板剤への抵抗性が認められる症例における周術期・術後期の抗血小板剤投与戦略は,安全なFDの実施に当たっての重要な課題と言えよう.

執筆者: 

有田和徳