複数のブレブを有する動脈瘤でも造影MR-ベッセル・ウォール・イメージング(VWI)で破裂したブレブを特定できる:東北大学

公開日:

2024年10月16日  

Aneurysm Wall Enhancement Can Predict Rupture Point in Intracranial Aneurysms With Multiple Blebs

Author:

Omodaka S  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Tohoku University Graduate School of Medicine, Sendai, Miyagi, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:39115321]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2024 Aug
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

複数のブレブを有する破裂動脈瘤において,破裂したブレブの術前予測が可能になれば,クリッピング手術はより安全に実施できるはずである.東北大学のOmodakaらは,2014年以降の7年間でクリッピング術を行った複数のブレブを有する破裂動脈瘤の連続45個を対象に,破裂ブレブ推定における,血管壁イメージングである造影MR-Vessel Wall Imaging(VWI)での動脈瘤壁造影効果(AWE)の意義を検討した.実際に術中所見から破裂ブレブが特定できたのは,72ブレブを有する31動脈瘤であった.AWEの程度は下垂体茎の造影効果を基準とする造影効果比(CR-stalk)で表した.

【結論】

全31動脈瘤72ブレブを対象に,このAWEと壁せん断応力(WSS)が,破裂ブレブと非破裂ブレブではどう違うかを解析した.
その結果,破裂ブレブは非破裂ブレブと比較して,CR-stalkは有意に高く(中央値0.83 vs 0.46,p <.001),WSSは有意に低かった(p =.03).
条件付きロジスティック回帰分析では,CR-stalkは破裂ブレブと独立相関した(AOR:3.9,95%CI:1.60-9.72,p =.003).
CR-stalkの破裂ブレブ予測におけるROC解析では,AUCは0.85で,カットオフを0.63とした時の感度は0.77,特異度は0.81であった.

【評価】

既に,壁せん断応力(WSS:wall shear stress)の低下と動脈瘤壁の不安定性との相関や(文献1,2),破裂動脈瘤では未破裂動脈瘤と比較して,動脈瘤壁造影効果(AWE)が高いことが報告されている(文献3,4,5).破裂動脈瘤における動脈瘤壁の強い造影効果の理由としては,元から存在する血管壁の炎症,血管壁のvasa vasorum,内皮損傷などとともに,破裂そのものがもたらす動脈瘤壁や内皮の損傷が示唆されている(文献5,6,7,8).
本研究は,複数のブレブを有する破裂動脈瘤において,WSSやAWEによって破裂したブレブの推定が可能か否かを検討したものである.AWEの指標としては下垂体茎の造影程度を標準としたCR-stalk(contrast ratio against pituitary stalk)を用いた.その結果,未破裂ブレブと比較して破裂ブレブでは,CR-stalkは有意に高く,WSSは有意に低かったが,条件付きロジスティック回帰分析ではCR-stalkのみが独立相関因子として残ったというものである.
この結果を受けて著者らは,AWEがWSSとは独立して破裂ブレブと相関するので,手術戦略の策定に有用であると結論している.
興味深い研究である.複数のブレブを有する破裂動脈瘤において破裂ブレブを正確に予測することが可能になれば,動脈瘤の周囲組織からの剥離がより安全となり得る.また万が一,完全なネッククリッピングが困難で,ドームクリップを余儀なくされても,最低限破裂ブレブへの血流を遮断することも可能になる.
さらに,血管内治療の場合でも,複数の動脈瘤を有するくも膜下出血患者において,CR-stalkは最初に治療を行うべき動脈瘤を決定する際にも有用と思われる.
本稿の結果は,明日からの実臨床に応用可能な重要な知見であり,他施設のシリーズでも検証されるべきである.

<コメント>
多発性にblebを有する不整形の破裂脳動脈瘤において,術中所見をもとにCFD(数値流体力学:Computational Fluid Dynamics)と造影MR-VWIの有用性を比較検討した非常に重要な臨床研究である.治療手段に関わらず,破裂部位が術前にわかっていれば,治療戦略およびアプローチを決める上で極めて重要な情報となる.これまでは,造影MR-VWIを用いることで,多発性脳動脈瘤の中で破裂脳動脈瘤を検出しうるところまで明らかになっていた.我々も,Case seriesながら,破裂脳動脈瘤のVWI所見と病理組織学的検証から,破裂部位の強い造影効果は,流体における血栓形成の特徴(波状の血栓形成;Zahn’s Line)との関連が示唆されることを発表してきた(文献5).
本研究は,未破裂のblebとの対比で破裂部のblebを同定することまで明らかにしており,我々の報告を裏付ける更に質の高い臨床研究であり,喜びと尊敬の念に耐えない.脳血管撮影でも,blebの血流が若干遅いことで破裂部位を同定できることがあるが,常に判別できるわけではない.破裂部位の血栓形成-止血機構の状態は様々であり,このことと本研究においてCFDよりもVWIが独立した因子であったことは良く合致すると考える.破裂脳動脈瘤の瘤壁では,止血機構が働いているという点で未破裂動脈瘤とは全く異なる状態である(それ故に未破裂脳動脈瘤壁の造影効果の意義は,未だ十分に明らかになっていないと考えられる).
破裂脳動脈瘤に関しては,造影MR-VWIは,鎮静などの安全性の担保が必要であるものの,術前診断として非常に有用な検査と考えられる.本研究によって,脳動脈瘤壁の可視化に関する研究が,また一歩前進したと考えられる.(広島市立北部医療センター安佐市民病院 脳神経外科 松重俊憲)

執筆者: 

有田和徳