発症12時間以内の急性期脳梗塞に対する抗炎症血栓溶解剤JX10(TMS-007)の安全性:国内前期第II相臨床試験の結果

公開日:

2024年11月14日  

最終更新日:

2024年11月14日

Anti-Inflammatory Thrombolytic JX10 (TMS-007) in Late Presentation of Acute Ischemic Stroke

Author:

Niizuma K  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Tohoku University Graduate School of Medicine, Sendai, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:39508107]

ジャーナル名:Stroke.
発行年月:2024 Nov
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

現在の経静脈的血栓溶解剤tPAは頭蓋内出血の畏れがあるため,最終健常確認後4.5時間以内の投与が条件となっている.JX10(TMS-007)は,黒カビ由来のSMTP化合物ファミリーに属する低分子化合物であり,血栓溶解促進作用に加えて抗酸化作用や抗炎症作用に由来する脳保護作用を有している.動物実験では,同剤が脳梗塞による死亡率を下げ,神経欠損症状を改善し,かつ出血性変化を抑制することが判明している.
本稿は,国内41施設で実施された前期第II相臨床試験の結果である.対象は最終健常確認後12時間以内の急性期脳梗塞患者90例で,38例にはプラセボ,52例にはJX10の3用量が割り当てられた.

【結論】

JX10群とプラセボ群で,年齢中央値は76.5歳と75歳,NIHSS中央値は8と8,最終健常確認から薬剤投与までの時間中央値は9.5時間と10時間と差はなかった.一次評価項目である症候性頭蓋内出血の頻度はJX10群0%,プラセボ群2.6%で差はなかった.
発症後90日目のmRS:0-1の頻度はJX10群で有意に高かった(40.4% vs 18.4%,p =.03).
初診時に動脈閉塞スコア <3の39例における発症24時間後の改善率はJX10群がプラセボ群より高い傾向であった(58.3% vs 26.7%)(オッズ比4.23[95% CI,0.99–18.07]).

【評価】

急性期脳梗塞患者全体で,血栓溶解剤tPAが実際に治療で用いられている頻度は10-20%に過ぎない(文献1).これは,発症後に長時間が経った段階でのtPA投与では,症状の改善が少なく,頭蓋内出血の頻度が高くなるため,tPA投与が発症4.5時間以内に制限されているためである(文献2).
TMSシリーズは東京農工大学において発見された黒カビ(S. microspora)が産生するSMTP(Stachybotrys microspora triprenyl phenol)化合物群である.TMSシリーズ(007,008,009,010)のうちTMS-007(JX10)は,プラスミノーゲンを活性化し,血栓溶解促進作用を示すと同時に可溶性エポキシドヒドロラーゼの阻害による抗炎症作用を示す(文献3,4).既に,ワーファリンを投与したマウスに脳梗塞を起こした出血性脳梗塞モデルでは,JX10が死亡率・神経欠損症状を有意に改善すると同時に,出血性変化を有意に抑制することが明らかになっている(文献5,6).tPAと異なり,出血性変化が起こりにくいのは,JX10が血栓周囲のプラスミノーゲンの立体構造を変化させ,フィブリンへの結合を促進するというメカニズムによるらしい.このために,発症4.5時間を超えた急性期脳梗塞に対しても安全な血栓溶解療法が可能になっている.
本稿は,日本国内41施設で行われた,プラセボ対照の国内前期第II相臨床試験の結果(90症例)である.実際のJX10投与時間は最終健常確認から中央値9.5時間(5.0-12.1)であったが,症候性頭蓋内出血はJX10群52例では1例も発生しなかった.発症後90日目のmRS:0-1の頻度はJX10群で有意に高く,MRA上の動脈再開通率も高い傾向であった.
著者らはこの結果を基に,JX10は良好な忍容性を示しており,急性期脳梗塞に対する血栓溶解療法のタイムウィンドウを拡大する可能性があると結論している.
このTMS-007(JX10)については,既にBIOGEN社主導で二重盲検・プラセボ対照の後期第II相試験(DAISY)が,最終健常確認後24時間以内に投与可能な急性期脳梗塞患者を対象(目標症例760例)に米国で進行中である(NCT05764122,2025年7月終了予定).このDAISY試験の結果次第では,近い将来,日本で開発された新薬が,全世界の急性期脳梗塞に対する医療現場を塗り替えるゲームチェンジャーになるかも知れない.楽しみな話である.

執筆者: 

有田和徳