造影DANTE T1-SPACE MRIはフローダイバージョン(FD)後のDSAに代わり得るか

公開日:

2024年11月14日  

最終更新日:

2024年11月17日

Efficacy of high-resolution vessel wall MRI in the postoperative assessment of intracranial aneurysms following flow diversion treatment

Author:

Matsukawa S  et al.

Affiliation:

Departments of Neurosurgery, Kyoto University Graduate School of Medicine, Kyoto, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:39213673]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2024 Aug
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

脳動脈瘤に対するフローダイバージョン(FD)後の瘤内残存血流や母動脈の開存の評価には,通常のMRAでは十分な分解能が得られないため,侵襲的なDSA検査に頼ることが多い.近年開発されたDANTE T1-SPACE(Siemens社)は高分解能で,血流信号抑制が強く,金属アーチファクトが少ない血管壁イメージング法であり,種々の頭蓋内血管病変の評価に使用され始めている(文献1-4).
京都大学脳外科のチームは,自験のFD治療後の26動脈瘤(23症例)を対象に,DSAと造影DANTE T1-SPACEを,術後6ヵ月と1年目に撮像し(合計45検査ポイント),DSAを基準としてその有効性を評価した.

【結論】

造影DANTE T1-SPACEは動脈瘤内残存血流を感度96.3%,特異度83.3%で検出した.91.1%(41/45)の検査ポイントで造影DANTE T1-SPACEとDSAの所見は一致した.DSAで不完全閉塞であった74.1%(20/27)のポイントでは,造影DANTE T1-SPACEの所見はDSAや高分解能コーンビームCT血管造影と完全に一致した.
母動脈の状態については,造影DANTE T1-SPACEの所見は97.8%(44/45)の検査ポイントで,DSA所見と一致した.

【評価】

本研究は,近年開発された新規の高分解能の血管壁イメージング法である造影DANTE T1-SPACEが,フローダイバージョン(FD)後の瘤内残存血流や母動脈の開存の評価のためにどのくらい有用であるかを,同時期に実施したDSAを基準として解析したものである.その結果,造影DANTE T1-SPACEはDSAと一致度が極めて高いことが明らかになった.本研究対象には,フローダイバーターが2個以上挿入され,強い金属アーチファクトが予測された症例が全体の42.3%(11/26)含まれていたが,それでも造影DANTE T1-SPACEとDSAの所見の一致率は91.1%であった.
本研究の発見がより多数を対象とした前向き研究で検証され,FD後のDSAの必要性が減少することを期待したい.
また,今回の研究では造影剤を用いたが,非造影のDANTE T1-SPACEの有用性と限界が明らかにされることも必要と思われる.

<著者コメント>
脳動脈瘤に対するコイル塞栓術では,一定頻度で再開通が発生するため,長期間の追跡が必要である.一方,flow diversion(FD)治療では再開通がないため,完全閉塞を一度確認すれば基本的にその後の追跡検査は不要である.しかし,完全閉塞まで数ヵ月〜2年程度の時間を要するため,その間に侵襲的なDSA検査を繰り返し施行することが大きな問題であった.従来のT1-SPACE法ではFD後の動脈瘤内の停滞血流と血栓を区別することは困難であったが,本論文ではDANTE pulseの追加により動脈瘤の血栓化をDSAに極めて近い精度で描出できることを示した.我々は,この結果に基づいて,FD後はMRI検査を繰り返し施行して完全閉塞を確認した後に,DSA検査を1回だけ施行するように診療方法を変更した.FD治療のさらなる低侵襲化に少なからず貢献したものと考えている.(順天堂大学大学院医学研究科脳神経外科学 石井暁)

<コメント>
本研究は,Flow diversion therapy後の追跡の画像診断において,DSAを基準として,Siemens社のDANTE T1-SPACEを用いた造影Vessel Wall Imagingの有用性を検証している.FD治療の件数は今後増加することが予測されるが,そのフォローアップの手法については注目されている.FDでは金属量の多いデバイスが頭蓋内血管に留置されることから,metal artifactの観点でTOF-MRAをはじめとして,MRIでの正確な診断が困難である.
DANTEはSiemens社のMRI-VWI(SPACEと呼ばれている)において,血液信号の“black:抑制化”を短時間かつ効果的に得る応用手法である.①高い分解能(0.56 mm × 0.5 mm),②高い血流抑制,③アーチファクトが少ないことが特徴である.
これまで,VWIは「動脈壁」の動脈硬化性変化や血栓,炎症あるいは破裂脳動脈瘤における破裂点の同定などに視点を置いた画像診断として研究が進んでいたが,この技術を応用し,逆に血流のある部位を低信号として,そのコントラストから動脈瘤内に血流が残っているかどうか(complete obliteration / incomplete obliteration)に着眼しているところがこの論文のポイントである.
提示された代表症例にみられるように,造影剤を用いても,血液信号抑制効果は高く,周囲(特に本研究では,瘤内の血栓)とのコントラストをより明確にすることに成功している.治療対象の脳動脈瘤の塞栓状態についてDSAと非常に高い相関性が示された.複数のFDを留置した症例でもその有効性が示されたのは特筆すべきである.造影剤を使用することで,真の低侵襲とは言えないかもしれないが,造影剤を用いることにより,瘤壁の状態の変化や血栓/血流腔との境界など得られる情報も多いと考える.
DANTEなど,血液信号抑制を補助するMRI技術は,他のMRI vendorでも開発されており(それぞれ名称や条件も異なる),今後の臨床応用が進むことが期待される.(広島市立北部医療センター安佐市民病院 脳神経外科 松重俊憲)

執筆者: 

有田和徳