経過観察中の未破裂脳動脈瘤をなぜ治療することになったのか:スイス・アーラウ州立病院の経験

公開日:

2024年11月14日  

From conservative to interventional management in unruptured intracranial aneurysms

Author:

Bandhauer B  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Cantonal Hospital Aarau, Switzerland

⇒ PubMedで読む[PMID:39332040]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2024 Sep
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

小型の未破裂脳動脈瘤,特に5 mm以下のものでは,破裂リスクが小さく,経過観察されることが多い(文献1-4).しかし破裂動脈瘤の中に占める5 mm以下の動脈瘤の割合は5割に達し,小型動脈瘤は決して安全な動脈瘤というわけではない(文献5).このため臨床現場では,経過観察中の未破裂動脈瘤の中で増大や形状の変化を示すものを治療の対象とすることは多い.スイスのアーラウ州立病院脳外科は,2006年以降に経験した未破裂動脈瘤556例のうち一旦経過観察の方針となった144例(動脈瘤径中央値3 mm)を後方視的に解析して,経過観察中に治療対象となった頻度,因子を明らかにした.

【結論】

経過観察中に18例(12.5%)が動脈瘤径の増大を示した.
10例(6.9%)では,追跡開始後中央値26ヵ月(IQR:8.5-64.5)の時点で治療が行われることになった(クリッピング6例,コイル塞栓術4例).治療の対象となった理由は動脈瘤径の増大8例,動脈瘤の形状の変化2例,その両者1例であった.径の増大が治療の理由になった8例の年間増大率は0.54 mm(+15%)であった.
探索的データ解析では,初診時に動脈瘤径が3 mm以上であることが,治療方針変更の最大の予測因子であった(HR 4.0,p =.025).その他の因子(形状,部位,全身合併症,喫煙など)は治療方針変更と相関しなかった.

【評価】

本研究は,一旦経過観察の方針となった未破裂脳動脈瘤144例のうち10例が中央値26ヵ月経過観察中に治療対象となり,8例は動脈瘤径の増大が理由であったことを示している.初診時の動脈瘤径は7例が3 mm以上,3例が3 mm以下であり,探索的データ解析で,3 mm以上の大きさであることが,経過観察中に治療対象になった最大の予測因子であった.なお,144例全体で,追跡期間中央値24.5ヵ月(IQR:7.8-55.8)を通じて破裂したものはなかった.
既に,経過観察中に増大が観察された動脈瘤が破裂のリスクであることは報告されており,それ故に,経過観察中の未破裂動脈瘤に対する定期的な画像評価が推奨されている(文献7,8).さらに最近,増大瘤の大きさ(Size),形状(Shape),部位(Site)別の破裂リスクと,それらを組み合わせた破裂リスクがトリプルSモデルとして報告されている(文献6).
本論文の著者らは,経過観察と決定された段階で3 mm未満の未破裂動脈瘤がその後に治療の対象となる可能性は,3 mm以上の動脈瘤と比較して少ない,従って,特に3 mm以上の未破裂動脈瘤を直ぐに治療しない場合には,定期的な画像検査で丁寧に経過観察しなければならないと結論している.また,経過観察から治療への変更は9例では68ヵ月までに行われており,経過観察開始後6年目以降の治療への変更は稀であると述べている.
本研究の最大の弱点は,エンドポイントが著者らの主観的判断による経過観察から治療への変更であり,客観的な増大率や破裂ではないことである.
また,経過観察中に治療対象となった10例中の3例は初診時に3 mm未満であり,3 mm未満の未破裂動脈瘤が決して“安全圏内”にあるわけではないことは,著者ら自身も認めていることになる.
やはり,小さな未破裂動脈瘤でも丁寧な経過観察は欠かせないことになる.今後も,大きさ,部位,年齢,併存疾患,患者の嗜好,家族歴別の動脈瘤の成長や破裂リスクを明らかにするために,大規模前向き研究を継続すべきである.

執筆者: 

有田和徳