公開日:
2024年11月28日Cognitive improvement after endoscopic third ventriculostomy surgery in long-standing overt ventriculomegaly in adults
Author:
Campanella F et al.Affiliation:
Department of Head-Neck and NeuroScience, Unit of Neurosurgery, University Hospital of Udine, Italyジャーナル名: | J Neurosurg. |
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発行年月: | 2024 Oct |
巻数: | Online ahead of print. |
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【背景】
成人長期存続型著明脳室拡大(LOVA)とは,小児期に生じた中脳水道の先天的・後天的な狭窄・閉塞によって,長期間無症候性の水頭症として存続したものが,成人期に発症するものである(文献1).患者は著明な脳室拡大を示す.頭位拡大やトルコ鞍の拡大・破壊を伴うものも多い.
症候性のLOVAに対しては,近年第三脳室底開窓術(ETV)の有効性が報告されている(文献2,3,4).本稿は,イタリアのウディネ大学脳外科でETVを行ったLOVAの23症例(平均年齢59歳)を対象に,LOVAに対するETVの効果と,効果を左右する因子を解析したものである.対象例のEvans Index(EI)は平均0.43であった.
【結論】
症状は歩行障害91%,認知症状83%,失禁70%,頭痛26%であった.IQは平均106と良く保たれていた.認知機能は長期記憶と視空間認知能において一般人口と比較して低下していたが,その他(全般,言語機能,短期記憶,注意遂行機能)は良く保たれていた.
全例でETVが実施され,1例を除いて成功し,手術後9-36ヵ月の経過観察期間中の合併症はなかった.EIは手術後平均3.49%減少した.ETV後は,術前に低下していた長期記憶と視空間認知能が有意に改善した(ともにp <.001).しかし,有意な改善は術前IQが相対に高い患者(>112)のみであり,術前IQが112以下の患者では認められなかった.
【評価】
Long-standing overt ventriculomegaly in adults(LOVA:成人長期存続型著明脳室拡大)は,2000年に日本の大井によって初めて報告された疾患概念で(文献1),乳児期に頭囲拡大があって中脳水道狭窄による高度の水頭症がありながら長く無症候で経過し,成人期以降になって水頭症症状を発症したものである.脳室拡大がありながら,長期間にわたって水頭症症状を呈さなかったものが,何故,成人(本シリーズでは患者の平均年齢は59歳)になって症候性になるのかは不明である.正常圧水頭症とは異なり,LOVAは閉塞性水頭症であるから,LPシャントは無効で,VPシャントか第三脳室底開窓術(ETV)が選択されるが,合併症の低さ故に近年はETVが選択されることが多い(文献2,3,4).
本稿はイタリアのウディネ大学関連病院のS. Maria della Misericordia病院でETVが実施されたLOVA 23例の解析である.興味深いのは,小児期からの長期的な脳室拡大にもかかわらず,患者のIQは平均105.6と比較的良かったことで,過去の報告でも,LOVAの患者が長期間にわたって普通の生活を送り,IQも保たれていることが報告されている(文献5,6).また,教育歴も平均11.35年(高卒レベル)であった.
本シリーズではETVの結果,術前に低下していた長期記憶と視空間認知能の有意の改善が認められている(ともにp <.001).またFACT-Cogサブスケールの主観的な認知機能(p =.009)や自覚的なQOLも有意に改善した(p =.024).
ただし,長期記憶と視空間認知能の改善は,術前IQがかなり高かった(>112)患者でのみ認められ,相対に低い患者では認められなかった.著者らは,IQが高い患者では認知予備能(Cognitive Reserve)が高いことがこの結果を生み出したのであろうと推測している.ETV後の脳血流改善による脳機能改善効果は,IQが高い,すなわちより柔軟で豊富な神経ネットワークを有する患者で表れやすいのかもしれないという.
興味深い研究結果である.LOVAのみではなく,正常圧水頭症患者においても,元々のIQが高い患者ではLPシャント後の認知機能の改善率が高いのかは知りたいところである.
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Oi S, et al. Pathophysiology of long-standing overt ventriculomegaly in adults. J Neurosurg. 92(6):933-940, 2000
- 2) Ved R, et al. Surgical treatment of long-standing overt ventriculomegaly in adults (LOVA). Acta Neurochir (Wien). 159(1):71-79, 2017
- 3) Bianchi F, et al. Long-standing overt ventriculomegaly in adults and endoscopic third ventriculostomy, the perfect treatment for the proper diagnosis. World Neurosurg. 149:104-110, 2021
- 4) Tuniz F, et al. Long-standing overt ventriculomegaly in adults (LOVA): diagnostic aspects, CSF dynamics with lumbar infusion test and treatment options in a consecutive series with long-term follow-up. World Neurosurg. 156:e30-e40, 2021
- 5) Katzman R, et al. Clinical, pathological, and neurochemical changes in dementia: a subgroup with preserved mental status and numerous neocortical plaques. Ann Neurol. 23(2):138-144, 1988
- 6) Canu EDG, et al. Neuropsychophysiological findings in a case of long-standing overt ventriculomegaly (LOVA). Neurosci Lett 385(1):24-29, 2005
- 7) Lewin R. Is your brain really necessary? Science. 210(4475):1232-1234, 1980
参考サマリー
- 1) 特発性正常圧水頭症の疫学と臨床像:スウェーデンにおける連続3,000例の解析とシステマティック・レビュー
- 2) 正常圧水頭症に対するシャント手術は再発性転倒を半減させるが,それでも同年代健常者の3倍転倒する
- 3) 小児水頭症に対する中脳水道ステント術の長期予後
- 4) 正常圧水頭症患者のVPシャント後の効果判定にはエバンスインデックスよりも脳梁角の方が有用
- 5) 正常圧水頭症に対する脳室心房(VA)シャントは安全か?
- 6) 乳児の感染症後水頭症に対する治療選択:アフリカ貧困国における選択
- 7) 特発性と続発性の正常圧水頭症の髄液スペースの違い―下角脈絡叢を通した髄液の流れが関与している―
- 8) 正常圧水頭症の診断におけるタップ・テストでは,何mLの髄液を抜けばよいのか?
- 9) 成人水頭症の疫学と治療効果の実情: スウェーデンにおける住民ベース研究
- 10) 日本における特発性正常圧水頭症の疫学:病院ベースの全国的な疫学調査