公開日:
2024年11月29日最終更新日:
2024年11月30日Super T2-FLAIR mismatch sign: a prognostic imaging biomarker for non-enhancing astrocytoma, IDH-mutant
Author:
Ozono I et al.Affiliation:
Department of Neurosurgery, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University, Hiroshima, Japanジャーナル名: | J Neurooncol. |
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発行年月: | 2024 Sep |
巻数: | 169(3) |
開始ページ: | 571 |
【背景】
IDH変異を有し,1p/19q共欠失を有さないびまん性グリオーマはIDH変異型星細胞腫と称される.近年,術前MRIにおけるT2-FLAIRミスマッチがIDH変異型星細胞腫を高い特異性で予測することが報告されてきた(文献1,2,3).しかし,T2-FLAIRミスマッチが,必ずしも予後と相関しないことも報告されている(文献1,4).広島大学のOzonoらは,T2高信号の内部に存在する,のう胞成分ではないが,FLAIRで明瞭な低信号を示す部分に注目し,この部分をスーパーT2-FLAIRミスマッチ・サインと称し,通常のT2-FLAIRミスマッチ・サインと比較してその臨床的意義を検討した.
【結論】
対象は非造影IDH-変異型星細胞腫61例で,このうち31例は広島大学で治療した症例,30例は米国NCIのTCGA/TCIA登録症例(TCGA-LGG)である.
通常のミスマッチは広島大学の55%,TCGA-LGGの30%で認められたが,通常のミスマッチの有無とPFSあるいはOSとは相関がなかった.
スーパー・ミスマッチは広島大学の26%,TCGA-LGGの43%で認められた.広島大学の症例では,スーパー・ミスマッチ陽性例では,PFSとOSが有意に延長していた(p =.049とp =.0232).また,TCGA-LGGの症例でもスーパー・ミスマッチ陽性例ではOSが延長していた(p =.0177).
【評価】
T2-FLAIRミスマッチ・サインは,びまん性グリオーマの術前MRIで認められる腫瘍部分がT2高信号でかつFLAIRで相対的に低信号を呈することで,成人のIDH変異型星細胞腫の特異的なバイオマーカーとして認知されているが,通常のT2-FLAIRミスマッチ・サインには必ずしも予後との相関は認められていない.本稿で取り上げたスーパーT2-FLAIRミスマッチ・サインとは,T2高信号は通常のミスマッチ・サインと同様であるが,FLAIRでの低信号部分が,のう胞ではないにも関わらず髄液と同程度まで低下していることを指している.
本研究は,広島大学のIDH-変異型星細胞腫31例と米国国立癌研究所(NCI)のTCGA/TCIA登録のIDH-変異型星細胞腫30例を対象に,通常のT2-FLAIRミスマッチ・サインの有無,スーパーT2-FLAIRミスマッチ・サインの有無と予後との関係を検討したものである.その結果,通常のT2-FLAIRミスマッチ・サインと予後(PFSとOS)との相関はなかったが,スーパーT2-FLAIRミスマッチ・サイン有り群では,無し群に比べて予後が良好であることが明らかになったという.著者らはこれらの結果をまとめて,スーパーT2-FLAIRミスマッチ・サインは,非造影IDH-変異型星細胞腫の予後推定バイオマーカーとして期待し得ると結論している.
病理学的には通常のT2-FLAIRミスマッチ・サインは,腫瘍細胞間隙の拡大と豊富なmicrocystを反映しているが(文献1),著者らはスーパーT2-FLAIRミスマッチ・サインを示す部位では,さらなる腫瘍細胞間隙の増大,腫瘍細胞密度の低下,microcystの増加が認められるという.両者間の分子遺伝学的な背景の差異の解明が待たれる.
本稿で示されたスーパーT2-FLAIRミスマッチ・サインは通常のMR撮像法で容易に得られるデータであり,今後多施設での前向き研究で,その意義が検証されるべきである.その際は摘出度や補助療法の種類なども含めた予後解析が望まれる.
<著者コメント>
T2-FLAIR mismatch signは,astrocytoma, IDH-mutantを予測する診断バイオマーカーとして確立された一方で,予後予測画像バイオマーカーは確立されていない.われわれの研究グループではdysembryoplastic neuroepithelial tumor (DNET)に認められるpseudocystからヒントを得て,FLAIRで脳脊髄液と同程度まで強く抑制されている腫瘍部は,より疎な細胞密度を反映して悪性度も低い,という仮説のもと検証を行った.本研究の優れた点としては,自施設のデータのみでなく,TCGA/TCIAデータベースも用いて検証した点が挙げられる.本所見があるastrocytoma, IDH-mutantはいずれのデータベースでも予後良好の予測因子であることが統計学的に明確となり,予後良好というpositiveな意味とFLAIRでの強い抑制という意味を込めてsuper T2-FLAIR mismatch signと命名した.本研究の弱点は,分子遺伝学的特徴との関連を示していない点である。その他のgliomaにおける,この所見の意義についても今後の検討課題である.(広島大学脳神経外科 大園 伊織)
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Patel SH, et al. T2-FLAIR mismatch, an imaging biomarker for IDH and 1p/19q status in Lower-grade gliomas: a TCGA/TCIA project. Clin Cancer Res 23:6078–6085, 2017
- 2) Jain R, et al. “Real world” use of a highly reliable imaging sign: T2-FLAIR mismatch for identification of IDH mutant astrocytomas. Neuro Oncol 22:936–943, 2020
- 3) Broen MPG, et al. The T2-FLAIR mismatch sign as an imaging marker for non-enhancing IDHmutant, 1p/19q-intact lower-grade glioma: a validation study. Neuro Oncol 20:1393–1399, 2018
- 4) Deguchi S, et al. Clinicopathological analysis of T2-FLAIR mismatch sign in lower-grade gliomas. Sci Rep 10:10113, 2020
- 5) Yamashita S, et al. T2-fluid-attenuated inversion recovery mismatch sign in lower grade gliomas: correlation with pathological and molecular findings. Brain Tumor Pathol 39:88–98, 2022
参考サマリー
- 1) 膠芽腫でもMRI非造影部分におけるT2-FLAIRミスマッチでIDH変異型が診断出来る
- 2) 術前MRIに基づく機械学習によるグリオーマの分子マーカー予測の精度:44報告のメタアナリシス
- 3) 組織学的膠芽腫と分子学的膠芽腫(IDHワイルドタイプの星細胞腫)の臨床的な違い
- 4) IDH野生型膠芽腫におけるEGFR遺伝子変化が予後に及ぼす影響:遺伝子パネルを用いた138例の検討
- 5) IDHワイルドの膠芽腫患者の5年以上の長期生存と関連する因子は何か:パリ・サンタンヌ病院の976例の解析
- 6) 低悪性度グリオーマでは広範囲切除が生存期間延長と関連:UCSFの392例
- 7) グリオーマ悪性度分類はMRIテクスチャ解析のみで可能:脳腫瘍画像診断界の「アルファー碁」か
- 8) 膠芽腫のMGMTプロモーターのメチル化はMRIで予測可能
- 9) MRIのADCヒストグラムはDiffuse intrinsic pontine glioma (DIPG) の予後と相関する