転移性脳腫瘍に対するSRSは摘出手術の前が良いか,後が良いか:39報告3,646例のメタアナリシス

公開日:

2024年12月15日  

最終更新日:

2024年12月20日

Preoperative Versus Postoperative Radiosurgery of Brain Metastases: A Meta-Analysis

Author:

Dharnipragada R  et al.

Affiliation:

University of Minnesota Medical School, University of Minnesota Twin-Cities, MN, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:37918565]

ジャーナル名:World Neurosurg.
発行年月:2024 Feb
巻数:182
開始ページ:35

【背景】

比較的大きな転移性脳腫瘍に対しては,腫瘍摘出後に摘出腔に対するガンマナイフなどの定位手術的照射を行うこと(post-SRS)が一般的であるが(文献1),手術の際に腫瘍細胞が周囲脳組織や髄液中に撒布され髄膜播種を引き起こす可能性がある(文献2,3).これに対して,予めSRSを行った後に摘出術を行えば,腫瘍細胞の撒布を最小限に抑える可能性があるが,まだ報告数は少なく(文献4-8),対照を置いた前向き研究はない.本研究は,転移性脳腫瘍に対する摘出前SRS(pre-SRS)の有効性を評価するために実施されたメタアナリシスである.33報3,129例がpost-SRSで,6報517例がpre-SRS症例であった.

【結論】

腫瘍サイズは両群ともほぼ一致していた(4.5-17.6 cm3).初回照射と手術との間隔は中央値1-5日,追跡期間は1-2年が多かった.
局所再発の統合推定値はpre-SRS:11.0%,post-SRS:17.5%,髄膜播種の統合推定値はpre-SRS:4.4%,post-SRS:12.3%で,いずれもpre-SRSのリスクが有意に低かった(p =.014とp =.019).
放射線壊死の統合推定値はpre-SRS:6.4%,post-SRS:8.9%で有意差はなかった(p =.393).
1年生存の統合推定値はpre-SRS:60.2%,post-SRS:60.5%でほぼ同一であった(p =.974).

【評価】

本稿は,転移性脳腫瘍に対して従来行われていた腫瘍摘出後SRSと,2017年以降に報告が出てきた腫瘍摘出前SRSを比較したメタアナリシスである.その結果,局所再発と髄膜播種の頻度は腫瘍摘出前SRSで有意に低かった.腫瘍摘出前SRSのもたらすフリーラジカルによる腫瘍細胞のDNAダメージとsterilization効果(不毛化)を反映しているのかも知れない(文献9).
放射線壊死についても腫瘍摘出前SRSがわずかに低い傾向であった.これらのデータは,転移性脳腫瘍に対しては,腫瘍摘出後SRSよりも腫瘍摘出前SRSの方の優位性を支持するものとなっている.
一方,1年OSが両群ほぼ同一であったのは,転移性脳腫瘍の死因の大部分が原疾患の進行であることを反映しているのであろう.
近年,転移性脳腫瘍に対しても様々な分子標的治療の有効性の報告が相次いでいる.やはり,現段階における腫瘍摘出前SRSと腫瘍摘出後SRSを比較するRCTが必要である.現在,アルバータ大学等で進行中で2026年8月終了予定のRCT/NCT04474925(文献10)の結果が楽しみではあるが,日本におけるRCT実施に向けた取り組みも待ちたい.

<コメント> 
近年,分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤の登場によりがん患者の長期生存が可能な時代となってきた.しかし,血液脳関門の影響もあり,これらの薬剤は脳転移には効果が乏しいことがあるため,脳転移に対する局所治療は今後の重要な課題となってきている.
かつては,脳転移の摘出後には全脳照射が行われていたが,全脳照射では高次脳機能障害などの晩期障害が問題となっていた.その後,海外のフェーズ3試験によって脳転移摘出術後の放射線治療として,定位照射が全脳照射に代わる選択肢として注目されてきた(文献11).また,日本臨床腫瘍グループ(JCOG)でもJCOG0504試験が行われ,脳転移摘出後の定位照射もしくは経過観察(再発時に定位照射)が全脳照射に対して非劣勢であることが示された(文献12).これらの結果,現在では脳転移巣摘出後に定位照射,もしくは経過観察を行うことが標準となっている.
一方,本稿で示されたように,近年,脳転移巣摘出の術前に定位照射をするストラテジーが注目されている.この背景には摘出術によって脳転移巣のがん細胞が術後の照射範囲外へ撒布され,髄膜播種が一定数生じてしまうことが挙げられる.術前に定位照射することにより,仮に術中にがん細胞が播種しても照射済みの細胞なので自滅することが期待される.結果として,本稿で示されたように,転移巣摘出前に定位照射を行った患者では髄膜播種が少なくなることが示されている.また術後の摘出腔は術前の腫瘍より大きくなることをよく経験するが,術前照射により照射範囲が狭くなれば,より高い放射線の効果が期待できる.しかし,術前照射には,術後の手術待機中に脳浮腫によって病状が悪化する可能性や病理診断がない状態での放射線治療を行うことの潜在的リスクが指摘されている.症例に応じて術前,術後照射を使い分けることも重要かも知れない.
日本では最近,静岡がんセンターを中心とした前向き多施設単アームのフェーズ2試験が行われた.既に目標症例数は達成し,現在,結果を解析中である.海外では術前 vs 術後定位照射のランダム化比較試験が行われている.いずれも今後の脳転移の局所治療に大きなインパクトがあるため注目されている.(名古屋大学脳神経外科 出口 彰一)

執筆者: 

有田和徳

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