破裂動脈瘤を夜間帯に治療すると転帰は不良:ウィスコンシン大学付属病院の493例の解析から

公開日:

2025年1月4日  

Nighttime Treatment of Ruptured Intracranial Aneurysms Are Associated With Poor Outcomes

Author:

Dumot C  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, University of Wisconsin-Madison, Madison, WI, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:38904367]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Jan
巻数:96(1)
開始ページ:78

【背景】

脳動脈瘤破裂急性期症例では緊急治療を行うことも多いが,夜間にさしかかっても,そのまま治療に入るのか,翌朝まで待つのか,悩むことは多い.ウィスコンシン大学付属病院のチームは,2006年から2020年の間,発症24時間以内に治療を行った破裂動脈瘤493例を解析して時間外治療が転帰に与える影響を検討した.治療時間の50%以上が夜10時から朝7時までの間であった夜間帯治療は78例(15.8%)で,415例(84.2%)は日勤帯治療であった.血管内手術と開頭手術は両群ともほぼ半々であった.WFNSグレード,Fisherグレード,治療前の再破裂率,動脈瘤のサイズ,後方循環系動脈瘤の割合,治療時間は両群間で差はなかった.

【結論】

脳内血腫は日勤帯治療群と比較して夜間帯治療群で多かった(42.3 vs 25.3%,p =.002).入院から治療開始までの時間は夜間帯治療群で短かった(6.4 vs 14.3時間,p =.04).
良好な治療転帰(mRS:0-2)の割合は,夜間帯治療群で有意に低かった(60 vs 72%,p =.023).治療転帰に影響を与える可能性がある12の因子を対象に多変量解析を行った結果,治療転帰と独立相関した因子は,WFNSグレード(p <.001),Fisherグレード(p =.006)と並んで夜間帯治療であった(OR:0.50,p =.023).脳内血腫の存在は辛うじて有意ではなかった(p =.06).

【評価】

破裂動脈瘤の再破裂は転帰不良の因子なので(文献1,2),再破裂を避けるために,破裂動脈瘤の根治治療は診断後速やかに行うのが一般的である(文献3,4,5,6).しかし,治療時間が時間外となった場合,治療医やスタッフの疲労等によって,治療成績が低下する可能性は危惧される(文献7,8).本研究は単一施設で破裂後24時間以内に治療が開始された動脈瘤の治療時間が転帰に及ぼす影響を検討したものである.その結果,全治療時間の50%以上が夜間帯(夜10時-朝7時)であった患者では,日勤帯(朝7時-夜10時)の患者に比べて転帰(mRS)が不良であった(p =.023).多変量解析でも,WFNSグレード,Fisherグレードと並んで夜間帯治療は独立した転帰不良因子であった.本稿の著者らによれば,破裂動脈瘤の治療時間が転帰と相関することを示したのは本研究が初めてであるという.ちなみに本研究対象のうち,治療時間が夜7時-朝7時の時間外群と朝7時-夜7時の時間内群との比較では,時間内群がやや良好であったが,有意差はなかった(p =.14).
このことは,単純に通常の勤務時間(日勤帯)であるかどうかより,睡眠時間帯(夜10時-朝7時)に食いこんでいるかどうかの方が,治療転帰への影響は大きいことを意味しているのかも知れない.やはり,夕方や準夜帯に飛び込んで来た破裂動脈瘤では,待てるのであれば,術者もその他のスタッフもしっかり覚醒している日勤帯に治療した方が良いということになろうか.既に,血管内血栓除去手術(EVT)では午前中(8時-11時34分)の治療開始が転帰良好と相関することが報告されている(文献9).
一方,本研究の対象患者では脳内血腫は日勤帯治療群と比較して夜間帯治療群で多く(42.3 vs 25.3%,p =.002),中心線偏位を伴う血腫も夜間帯治療群で多かった(14.1 vs 6.3%,p =.001).脳内血腫を伴う患者では,夜間帯であろうとも,できるだけ早期に治療したいという脳外科医の判断が影響した可能性が考えられる.特に中心線偏位を示すような大きな血腫を伴う破裂動脈瘤は,やはり緊急手術の対象であろう.しかし,大きな血腫を伴わない破裂動脈瘤症例では,本研究が示唆するように,夜間帯治療を避けるべきかどうかについては,今後前向き試験で検討されなければならない.術者のみならず,レジデント,関連スタッフの安らかな眠りの確保のためにも––––.

執筆者: 

有田和徳