動脈瘤破裂によるくも膜下出血患者の収縮期血圧コントロールの目標値は118:CONSCIOUS-1試験394例の個別データから

公開日:

2025年9月22日  

Blood Pressure Targets After Aneurysmal Subarachnoid Hemorrhage: Is Lower Better?

Author:

Eagles ME  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, University of Calgary, Calgary, Alberta, Canada

⇒ PubMedで読む[PMID:40488458]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Jun
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

動脈瘤性くも膜下出血後(aSAH)の患者の血圧は一般に高く,放置すれば動脈瘤の再破裂を招くが,下げ過ぎると脳微小循環不全を招く怖れがある.このため,未治療動脈瘤を有する患者における至適な血圧目標については議論が続いている(文献1-5).本研究は,世界11ヵ国52センターで実施された脳血管攣縮予防薬クラゾセンタンに関するRCT(CONSCIOUS-1)(文献6)の参加者394例のデータを用いて,入院から動脈瘤治療までの間に動脈ライン持続モニタリングによって記録された収縮期血圧(sBP)の最大値が,3ヵ月後の機能予後に与える影響を事後解析したものである.
患者年齢中央値51歳,女性71%であった.

【結論】

3ヵ月後の機能予後良好(mRS:0-2)は69%,機能予後不良(mRS:3-6)は31%であった.平均最大sBPは機能予後良好群で145 mmHg,機能予後不良群では155 mmHgであった(p <.001).非調整回帰モデル解析では,動脈瘤治療前に低いBPを維持していた患者ほど,機能予後良好の可能性が高いことを示唆した(オッズ比:1.01,95% CI 1.00-1.02).Youdenインデックスにより同定された最大sBPの至適カットオフ値は118 mmHgであった.この閾値をモデルに組み込んだ解析では,sBPが118 mmHg未満に維持されていた患者では,より良好な予後を得る可能性が高いことが示された(オッズ比:0.28,95% CI 0.07-0.83).

【評価】

くも膜下出血急性期では,高血圧による再出血や出血性合併症の予防と同時に脳灌流圧維持のバランスの観点から収縮期血圧 <160 mmHg(米国脳卒中協会,文献1),あるいは <180 mmHgが推奨されてきた(欧州脳卒中機関,文献2).一方,米国神経集中治療学会員を対象としたアンケート調査では128名の回答者の半数以上が動脈瘤治療前にsBPを140 mmHg未満に管理していたと報告されている(文献3).
本稿の研究では,発症3ヵ月後の良好な機能的予後を得るための,動脈瘤治療前の収縮期血圧の至適カットオフは,従来の推奨レベルや実践的な目標値よりも一段と低い118 mmHgであることが示された.では何故,血圧を下げると機能予後が良いのか,その理由について本稿では示されていない.再破裂例は予め対象から除外されているので,再破裂予防効果ではなさそうである.
しかし,これまでの報告によれば,降圧が再破裂のリスク低下と関連していることは事実のようである(文献5,7,8,9).本報告の結果ではsBPを118以下に下げても機能予後が悪化せず,むしろ良好であったことを考慮すれば,脳微小循環不全を畏れて積極的な降圧を躊躇してきた救急現場の担当者としては,これから安心して降圧できる一つのエビデンスが出てきたことになる.
将来,動脈瘤治療前のくも膜下出血患者には収縮期圧118あるいは切りのよい120 mmHgの降圧が推奨となるのかどうか,今後のRCTを待ちたい.

執筆者: 

有田和徳

関連文献