医学論文の「recent」ってどのくらい最近なのか? 1,000論文の解析で判ったこと:BMJクリスマス・スペシャル2025

公開日:

2025年12月22日  

How recent is recent? Retrospective analysis of suspiciously timeless citations

Author:

Díez-Vidal A  et al.

Affiliation:

Department of Internal Medicine, La Paz University Hospital, Madrid, Spain

⇒ PubMedで読む[PMID:41381096]

ジャーナル名:BMJ.
発行年月:2025 Dec
巻数:391
開始ページ:e086941

【背景】

英語の論文では,recentがついた表現は多い.recent- report, literature, development, study, evidenceなどと枚挙にいとまが無い.しかし,「recent report」で引用されている論文の発表年が15年前であったりして,愕然となることもある.
マドリードのラパス大学病院内科学は,PubMedを構造化検索し,生物医学論文1,000編を抽出し,論文で引用されている「recent」を冠した研究がどのくらい以前(何年前)までのものを指しているのかを解析した.解析対象は生物医学論文で頻出する20種類の「recent」を含む表現とした.

【結論】

「recent」として引用された研究の発表年数は大きくばらついていた.引用までの時間差は0-37年に及び,平均5.53年,中央値4年(IQR:2-7年)であった.最頻値は1年(n =159,15.9%)であったが,177件(17.7%)は少なくとも10年以上前の研究であった.
集中治療,感染症,遺伝学,免疫学,放射線科では中央値がおおむね2年であったが,腎臓内科,獣医学,歯科では8.5-14年と長かった.
引用までの時間差は地域差を認めず,時間の経過とともに徐々に短縮しており,最新の出版物ほど時間差は短かった.インパクトファクターの高い(≧12)雑誌では,より新しい研究が引用される傾向があった.

【評価】

恒例のBMJクリスマスissueである.愉快ではあるが,はっとさせられる論文である.とりあえず,本サマリーの執筆者の周囲にいる医師・看護師以外のスタッフ12人に「最近の論文」とはいつからのものを含むと思うかと聞いたところ,3ヵ月以内2人,6ヵ月以内2人,1年以内6人,2年以内1人,5年以内1人で,5年超は0人であった.一般人の“常識”と生物医学論文の著者らの“常識”の乖離は大きい.
改めて,自分で書いた過去の論文を見直してみようと思う.
本論文の著者らが検索に用いたrecentを含む表現は,“recent advance”, “recent analysis”, “recent article”, “recent data”, “recent development”, “recent evidence”, “recent finding”, “recent insights”, “recent investigation”, “recent literature”, “recent paper”, “recent progress”, “recent report”, “recent research”, “recent result”, “recent review”, “recent study”, “recent studies”, “recent trial”, “recent work” の20個である.いずれも本来は「即時性」のオーラを放っているが,本研究結果によれば「recent approach」「recent discovery」「recent study」は比較的古い文献と結び付けられていたのに対し,「recent publication」「recent article」はより新しい文献が引用されていた.
37年前の論文を最近の研究として引用した論文に関しては,著者らはrecentとrenaissanceを書き間違えたんじゃないかと書いている.また,初代iPhone発売以前のものを「recent」と表現することに疑義を呈している.世界が大きく変化した2007年1月の初代iPhone発売以降がrecentであるとも受け取れる一文にはある種の説得力がある.
地域別(アジア,北米,ヨーロッパなど)で見ると,「recent」の古さに関しては差はなかったが,国別でみると,トルコからの論文における中央値14年超が目立っている.急にトルコに行ってみたくなった.
診療科別では,集中治療,感染症,遺伝学,免疫学,放射線科では短く,腎臓内科,獣医学,歯科では長い傾向であった.著者らは,歯科が10年前の文献を好む傾向は,親知らずのように,引用も完全に現れるまで10年を要する可能性すら示唆すると述べている.
ちなみに,本研究で取り上げた脳外科関係の論文は6本と少ないが,引用までの時間差は中央値5年(IQR:1.25-16.25)であった.Q3が16.25年ということは「最近の論文」として引用された研究のうち25%は16.25年超えということになる.どこのどいつだーー!と怒鳴りたくなるが,もしかするとMRIの登場(1980年代)をもって,脳神経外科の「recent」がスタートしたという叡智があるのかも知れない.
著者らが言うように,やはりrecentは初デートの後に「近いうちに電話する」と言うのに似ており,安心感は与えるが,解釈の余地は無限にある.今後は,recent ten yearsのように期限を示しておいた方が誤解は少ないのかも知れない.

執筆者: 

有田和徳

関連文献