日本人の孤発性成長ホルモン産生腺腫の遺伝子解析

Vol.1, No.2, P.10 公開日:

2016年9月13日  

最終更新日:

2020年12月10日

Genetic and clinical characteristics of Japanese patients with sporadic somatotropinoma.

Author:

Takahashi Y  et al.

Affiliation:

Division of Diabetes and Endocrinology, Department of Internal Medicine, Kobe University Graduate School of Medicine, Kobe, Hyogo, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:27498687]

ジャーナル名:Endocr J.
発行年月:2016 Nov
巻数:63(11)
開始ページ:953

【背景】

家族性の先端巨大症〔成長ホルモン産生下垂体腺腫;GH producing pituitary adenoma(GHoma)〕とその遺伝子的背景は良く知られてはいるが,大部分のGHomaは孤発性である.神戸大学のTakahashiらは,日本人孤発性GHomaの遺伝子異常の頻度を検討した(n=61).

【結論】

GNASの体細胞遺伝子変異は50.8%,AIPの生殖細胞遺伝子変異は4.9%で認められた.GPR101遺伝子異常は認められなかった.44.3%はいずれの遺伝子異常も認められなかった.AIP異常群(3例)は有意に若年者が多く,腫瘍径が大きく,経口血糖負荷試験の際の成長ホルモン底値が高かった.

【評価】

日本人のGHomaを対象に既知の原因遺伝子の検索を行った結果である.これによると日本人のGHomaにおいても約半数はその原因となる遺伝子異常は不明である.2015年のヘルシンキ大学のVälimäki Nらによるwhole genom解析でも,共通してみられた体細胞変異は既知のGNAS蛋白遺伝子異常のみであった.
家族性先端巨大症の原因となるAIP胚細胞遺伝子異常は本研究でも約5%と欧州からの過去の報告と一致している.一方,GPR101遺伝子異常は超早期発症巨人症の背景遺伝子として2014年に報告されたものである.NIHのStratakis CAは孤発例の4.4%にこの遺伝子異常が発見されたと報告しているが,Takahashiらの本シリーズでは62例中1例も発見されていないことは注目に値する.他施設からの検証が必要である.
今後,先端巨大症の半数を占める"原因遺伝子不明群"についてはエピジェネティックな機構も含めてさらなる解析が必要である.なお本論文の考察部分はGHomaの背景遺伝子異常と臨床像,病理像の関わりについての臨床家にもわかりやすい優れたレビューとなっている.

執筆者: 

有田和徳

参考サマリー