クッシング病における新しい原因遺伝子変異の発見:これで全てか?

公開日:

2019年3月5日  

最終更新日:

2019年3月7日

Identification of recurrent USP48 and BRAF mutations in Cushing's disease.

Author:

Chen J  et al.

Affiliation:

Shanghai Key Laboratory of Psychotic Disorders, Shanghai Mental Health Center, Shanghai Jiao Tong University School of Medicine, Shanghai, China

⇒ PubMedで読む[PMID:30093687]

ジャーナル名:Nat Commun.
発行年月:2018 Aug
巻数:9(1)
開始ページ:3171

【背景】

2015年,これまで謎であったACTH産生腺腫の発生に関わる新しい遺伝子変異USP8が発見された(文献1,2).この変異はクッシング病の約半数に認められるが,残り半数のクッシング病の原因遺伝子変異は不明であった.上海交通大学のChenらは91例のUSP8ワイルドタイプのACTH産生腺腫に全エクソーム解析を行い,二つの高頻度突然変異を発見した.

【結論】

USP8ワイルドタイプのACTH産生腺腫の23.1%(21/91)でUSP8と同様の脱ユビキチン化蛋白であるUSP48の機能活性型変異(p.M415Iあるいはp.M415V)が,16.5%(15/91)でBRAFの変異(p.V600E)が認められた.USP8の変異と同様に,USP48変異もBRAF変異もACTHの前駆体であるproopiomelanocortin(POMC)をコードする遺伝子のプロモーターの活性化と転写を促進していた.BRAFV600E変異を有するACTH産生腺腫の初代培養細胞では BRAF阻害剤のベムラフェニブによるACTH産生抑制作用が強かった.

【評価】

既に報告されているUSP8変異陽性のACTH産生腺腫はクッシング病の約5割に認められる.変異USP8は蛋白質分解酵素によって切断を受けやすく,この結果生じた変異USP8断片は脱ユビキチン化酵素活性ドメインのみからなり,高い酵素活性を示す.これにより,ユビキチン化されたEGF受容体の過度の脱ユビキチン化を招く.結果として本来リゾゾームで分解されるはずのEGF受容体が分解されずにリサイクルされるため,EGFのシグナル伝達が持続活性化され,MAPKの経路の活性化から,細胞増殖とPOMCのプロモーター領域の活性化を通した副腎皮質刺激ホルモンの過剰産生につながると考えられている.今回,USP8ワイルドタイプのACTH産生腺腫に脱ユビキチン化蛋白USP48の機能活性型変異とBRAFの変異が発見されたが,これらも共にACTHの前駆体であるPOMCをコードする遺伝子のプロモーターの活性化と転写を促進していた.USP48変異とBRAF変異は相互排他的であり,USP8変異とUSP48変異,BRAF変異は少数の例外を除いてほぼ相互排他的であった.USP48変異,BRAF変異ともに,対照としたGH産生腺腫(n=20),プロラクチン産生腺腫(n=20),非機能性下垂体腺腫(n=20)では1例も認められす,ACTH産生腺腫に特異な遺伝子変異であることがわかった.
USP8変異陽性のACTH産生腺腫は,ワイルドタイプに比較して腫瘍径が小さく,ACTHレベルが高いことが報告されているが(文献2),今回発見されたUSP48変異型ACTH産生腺腫はUSP48/BRAFワイルドタイプ腺腫と臨床像に差は無く,BRAF変異陽性腺腫例ではUSP48/BRAFワイルドタイプ腺腫に対して,夜間の血中ACTHとコルチゾル値が有意に高かった(p=0.023とp=0.007,Mann–Whitney).
BRAF変異は種々の癌腫や良性腫瘍で認められており,下垂体近傍ではpapillary squamous typeの頭蓋咽頭腫で高率に発見される(文献3).BRAF阻害剤のベムラフェニブは2019年2月現在,本邦ではゼルボラフⓇの名前で販売され,BRAF遺伝子変異を有する根治切除不能な悪性黒色腫への適応を取得している.現在,BRAF変異陽性頭蓋咽頭腫に対するベムラフェニブとMEK阻害薬のコビメチニブの治験(II相)が進行しているが,今後,BRAF変異型ACTH産生腺腫に対するBRAF阻害剤の投与がスタートするかも知れない.
今回の報告ではクッシング病147例における原因の内訳はUSP8変異53%,BRAF変異13%,USP48変異15%であり,合計72%に体細胞変異が同定された.それ以外には稀な原因としてコルチコイド・レセプター遺伝子NR3C1の機能喪失型変異(文献4)やGNAS変異など,また胚細胞変異としてMEN1, 4に合併するもの,AIP,TSC,DICER遺伝子変異などが報告されている.これらの結果から,主な体細胞変異については同定された可能性があるが,残りの原因についてはさらなる検討が必要である.

執筆者: 

藤尾信吾   

監修者: 

有田和徳

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