日本における下垂体手術の実態:内視鏡 vs 顕微鏡,DPCデータから

公開日:

2020年3月13日  

最終更新日:

2020年3月16日

Pituitary surgery's epidemiology using a national inpatient database in Japan.

Author:

Hattori Y  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, Nippon Medical School, Tokyo, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:32125502]

ジャーナル名:Acta Neurochir (Wien).
発行年月:2020 Mar
巻数:[Epub ahead of print]
開始ページ:

【背景】

医学論文や学会発表等をみれば,下垂体手術は基本的にどこでも内視鏡下経蝶形骨洞手術(TSS)で実施されているという印象を受けるが,少なくとも米国では2014年の段階で,未だに半数が顕微鏡下でTSSが行われていた(文献1).
日本ではどうか.日本医科大学のHattoriらは,2010~2016年のDPCデータを基に,この点を明らかにした.検索したDPC病名は下垂体腺腫,プロラクチノーマ,先端巨大症,クッシング病,頭蓋咽頭腫などで,この5年間に合計16,253例(頭蓋咽頭腫1,576例を含む)が下垂体手術を受けた.最も多かったのは非機能性下垂体腺腫で66.9%を占めた.

【結論】

手術アプローチは88%がTSS,12%が開頭手術であった.TSSの件数は徐々に増加した.
内視鏡下TSSは77%で,顕微鏡下TSSは23%で,内視鏡下TSSの割合は年と共に急速に増加している.内視鏡下TSSが選択されたのは,年間35例以上のハイボリュームセンターでは92%で,年間7例以下のローボリュームセンターでは56%であった.内視鏡下TSS患者における手術後低ナトリウム血症の頻度は顕微鏡下TSSの場合より低かった(OR:0.69,p=0.019)が,その他の手術合併症の頻度には差がなかった.

【評価】

本報告で,日本全体ではTSSの約8割が,ハイボリュームセンターでは約9割が内視鏡下で行われていることが明らかになった.また,経年的に内視鏡下TSSの割合が増加しているのに対して,顕微鏡下TSSの割合は急速に減少している.
本報告は,日本では,内視鏡下TSSが始まった米国よりも(文献1)はるかに早いスピードで顕微鏡下TSSから内視鏡下TSSへの切り替が進行していることを示している.今後もこの傾向は続き,顕微鏡下手術を継続している一部の脳外科医の引退と共に,顕微鏡下TSSは歴史の表舞台からは遠ざかって行くものと思われる(文献2).
一方,TSS全体の実施件数は,2011年で約2300例,2016年で約2600例と微増しているが,経頭蓋手術は,2011年からの5年間は毎年約400例とほぼ一定の数が実施されている.これは下垂体部腫瘍のうち頭蓋咽頭腫などの鞍上部腫瘍,あるいは鞍上部や鞍外に伸展する浸潤性下垂体腺腫で開頭手術を必要とする症例数は減らないことを示唆している.
本報告は,今後の下垂体手術に関する疫学研究にとって重要な基本データとなるであろう.また,下垂体手術を巡る保険制度,教育システムにも影響を与える可能性がある.
一方で,内視鏡下TSSの際の万が一の血管損傷に備えた顕微鏡の準備は不要なのかという点は,未だ検討の余地があるように思う.

執筆者: 

藤尾信吾   

監修者: 

有田和徳

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