複数の下垂体転写因子が発現している多ホルモン性下垂体腺腫はアグレッシブである

公開日:

2020年5月22日  

最終更新日:

2020年5月23日

Expression of Additional Transcription Factors Is of Prognostic Value for Aggressive Behavior of Pituitary Adenomas

Author:

Micko A  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Medical University of Vienna, Austria

⇒ PubMedで読む[PMID:32302984]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2020 Apr
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

WHO2017内分泌腫瘍の分類によれば,多ホルモン性下垂体腺腫は①転写因子(TF)のうちPIT1のみの発現が陽性でGH,PRL,TSH,α-subunit産生を示す腫瘍と,②複数の転写因子が発現し,複数のホルモンの組み合わせ示す腫瘍(PAWUC)からなる(文献1,2).
ウィーン大学のMickoらは,ゴナドトロフへの分化転写因子あるいは関連因子(TFGA:SF1,GATA3,ERα)だけを発現するTFGA単独発現腫瘍(ゴナドトロピノーマ)51例と他の転写因子(PIT1,TPIT)を同時に発現するTFGAプラス腫瘍22例を抽出し,TFGAプラス腫瘍(PAWUC)の特徴を検討した.

【結論】

TFGAプラス腫瘍22例で発現していたTFGA以外の転写因子はPIT1:20例,TPIT:1例,PIT1+TPIT:1例であった.TFGAプラス腫瘍はTFGA単独発現腫瘍に比較して,若く(46 vs 56歳),腫瘍径が小さく(18.3 vs 25mm),浸潤(内視鏡所見)が多く(50 vs 16%),全摘率が低かった(44 vs 86%)(すべてp<0.01).Mib-1とMGMTの状態に2群間に差はなかった.
複数の転写因子が発現するTFGAプラス腫瘍(PAWUC)はゴナドトロピノーマに比較してアグレッシブであり,術後丁寧な経過観察が必要である.

【評価】

この論文は,Pit1系の複数のホルモン産生を示す多ホルモン性下垂体腺腫(以前にはsilent subtype III adenomaと呼ばれていたアグレッシブな腫瘍)とは区別され,複数の転写因子が陽性で複数のホルモン産生の稀な組合せからなる腺腫 (plurihormonal adenomas with unusual immunohistochemical combinations:PAWUC)の病態を検討したものである.
著者等は比較の対照として,ゴナドトロピノーマ(TFGA単独発現腫瘍)をおき,PAWUCをTFGA以外の転写因子を発現する腫瘍(TFGAプラス)と設定して,PAWUCの臨床的特徴の描出を試みた.その結果TFGAプラスは若年発症でアグレッシブな腫瘍であったという.
ちなみに彼らの458例の下垂体腺腫症例(2008~2018年)のうち多ホルモン性下垂体腺腫は26例(5.7%)でそのうち22例がTFGAプラスであったとのことであるから,4例(0.87%)はPit1系の多ホルモン性下垂体腺腫であったものと推測される.
意外であったのは,いわゆるゴナドトロピン産生腺腫の少なさで,かれらのシリーズでは11.1%に過ぎない.一般的には非機能性下垂体腺腫のうち過半数はゴナドトロピン産生腺腫であるので,下垂体腺腫全体の中では少なくとも20%は超えると思われる(文献3).このシリーズではLHαやFSHα陽性でもゴナドトロフ転写因子(SF-1など)が発現しない腫瘍は除外しているのかも知れない.
逆にPIT1系列以外の多ホルモン性下垂体腺腫PAWUCの多さにも(4.8%:22/458)驚かされる.WHO分類ではPAWUCは,ACTH/GHやACTH/PRLなどの非常にまれな(extremely rare)な組み合わせのホルモン産生腫瘍という定義になっており(文献4),下垂体腺腫全体の5%を占める腫瘍とは想定していないのではないか.しかも,22例のPAWUCのうち13例が機能性腺腫であり,そのうち11例が成長ホルモン産生性であった(IGF-1の中央値 938 ng/ml,IQR 542~1047).これらは本来,成長ホルモン産生性腺腫でTFGAを伴う亜型として議論しなければならないように思う.
多ホルモン性下垂体腺腫 (plurihormonal pituitary adenomas)のうち,特にPit1系の多ホルモン性下垂体腺腫でない,いわゆるPAWUCの定義とその病態については,まだまだ議論が必要である.

執筆者: 

藤尾信吾   

監修者: 

有田和徳

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